『アナザー・サイド』でボブ・ディランが世代の代弁者を降りた訳

『ラモーナに(原題:To Ramona)』では、“I’ll forever talk to you/But soon my words they would turn into a meaningless ring(僕は君にずっと話しかけるだろう。でもその言葉はすぐに空虚な指輪に変わるだろう)”と歌い、世代の代弁者としての役割の終わりを暗に伝えようとしているように見える。ジャクソン・ブラウンはこの曲を評して、「ディランはいつでも"ものごとを追求する人々の代弁者"なのさ」と語っている。

1964年、多くのディラン・ファンはアルバム『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』が、これまでのディラン節を凝縮した感情的表現に富んだものになることを期待していた。しかし直前の2作とは異なりトップ40を逃し、評価もさまざまだった。ディラン自身、(プロデューサーの)ウィルソンが付けたアルバム・タイトルはピンと来なかったようである。「ウィルソンにそのタイトルはやめてくれ、って言ったんだけどね」。

ディランは後に語っている。「誇張し過ぎだと思ったし、あんなタイトルを付けるべきでなかったとわかっている。特にアルバム『時代は変る』の後ではなおさらさ。過去を否定するようなタイトルだったけど、実際の俺とはまるで違う」。

しかしこのアルバムは間違いなくディランの転換点となった。プロテスト・ソングの旗手というレッテルを剥がし、彼自身も予想していなかった世界へ飛び出す第一歩だった。その夜、レコーディングを終えてスタジオを出て行く時、ディランは作家のヘントフに向かって言った。「俺のバックグラウンドなんてまるで関係ないのさ。大切なのは“俺が今どうなのか”ってことさ」。

Translation by Smokva Tokyo

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