ボブ・ディランが『追憶のハイウェイ61』でロックの歴史に残したもの

シャッフルのリズムが軽快なこの曲には、もうひとつの大きな特徴がある。それはクーパーがセッションのスタジオに持ち込んだ警官用のホイッスルだった。「あれは失敗だった」とクーパーは悔やむ。「当時俺はネックレスのように警官用のホイッスルを首にかけていたんだ。ドラッグ絡みでなにかあった時に吹こうと思ってね。まあちょっとしたシャレで。『追憶のハイウェイ61』のレコーディング中、ホイッスルの音がぴったり合うって思ったんだ。そこで俺は首からホイッスルを外してディランの首にかけながら言った。"ハーモニカよりこっちの方がいいよ"ってね。そしたら彼は本当にホイッスルを使っちゃってね。しかもホイッスルを彼に取られちゃったよ」。

セッションは続き、『親指トムのブルースのように(原題:Just Like Tom Thumb’s Blues)』は、(冒頭の歌詞)"雨の中を迷う(lost in the rain)"ようなフィーリングがなかなか出せず、16テイクも費やした。作家クリントン・ヘイリンは、参加したスタジオミュージシャンたちがこのアルバムに大いに貢献している、と指摘する。バターフィールド・ブルース・バンドのサム・レイのドラムでセッションが始まり、フランク・オーウェンスのピアノが乗る。しかし夜が更けるとグレッグがドラムを代わり、グリフィンがピアノを弾き始める。そのタッチは曲の枯れた感じを上手く引き継いでいる。『クイーン・ジェーン(原題:Queen Jane Approximately)』は7テイク録り、午前2時、このセッション中に最速で完成した曲『やせっぽちのバラッド(原題:Ballad of a Thin Man)』で最高潮を迎える。くるくると移り変わる遊園地のメリーゴーランドのように、この曲はレイ・チャールズの裏切りのバラード『I Believe to My Soul』の"心から信じているのに、君は僕を弄ぼうとする"を具現化している。この曲は一度出だしをミスしただけで、ランスルーを1回行い、ファイナル・テイクとなった。

8月3日の夜明け、アルバム『追憶のハイウェイ61』の全9曲とこれからヒットするシングル曲の完成版が揃った。しかしディランは、アルバムの締めの曲『廃墟の街(原題:Desolation Row)』の別バージョンのために、翌4日も彼とアコースティックギターのみのセッションのスケジュールを入れていた。その予定取り進めることもできたが、プロデューサーのジョンストンは隠し玉を持っていた。ナッシュビルのギタリスト、チャーリー・マッコイが曲の印象的なギターパートをオーバーダビングし、曲にメキシカン・カンティーナの雰囲気を添えた。

ディランはそれまで、自分の作品を評価することで論議を呼ぶことを避けてきた。しかし『追憶のハイウェイ61』のリリース日(1965年8月30日)に行われたノーラ・エフロンとスーザン・エドミストンとのインタビューで、このアルバムを「幻想的で数学的な音楽」と呼んだ。「文句のある奴にはいつまでも言わせておけばいいさ。俺の音楽は本物さ。どんなブーイングにも勝るのさ」。


Translation by Smokva Tokyo

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