9・11で金儲けを企てたトランプ

復興基金の内、20億ドルという決して少ないとはいえない額が、ロウアー・マンハッタン再開発公社とエンパイア・ステート再開発公社に割り当てられた。また、その4分の1にあたる約5億ドルが、同地区の中小企業支援のために充当された。早い段階で支援を受けた8,214社の中には、ドナルド・トランプの所有する不動産の中で最も価値の高いトランプ・ビルを運営する40ウォール・ストリートLLCも含まれる。トランプ・ビルはグラウンド・ゼロから1.6km以内の場所に位置する高層ビルである。基金はその後さらに14,000社以上の企業に対し、3億5千万ドルを追加支援した。

トランプも同基金に申請し、支援金を受け取った。トランプは9・11直後にドイツのニュース番組のインタビューに答え、「幸運なことにトランプ・ビルはワールド・トレード・センターの崩落には影響を受けなかった」ことを認めている。

40ウォール・ストリートLLCは(親会社はトランプ・オーガナイゼーション)、法的には基金の条件を満たしていた。従業員が500名未満で14丁目より南に位置していることが条件だった。基金の運営管理団体によると、被害を被ったかどうかは審査基準に含まれないという。基金の大きな目的は、ニューヨークにおけるビジネスと雇用を継続することで、ニューヨーク州内から他州や海外への流出を防ぐことにあるという。

それでもなお、復興基金から支援金を受け取ったトランプに対してよく思わない人々もいる。トランプの基金受領の事実は、2006年にニューヨーク・デイリーニューズ紙がスクープし、グラウンド・ゼロを含む地域から選出されたジェロルド・ナドラー下院議員は2016年5月、トランプに対し基金の返金を求める公開書簡を送った。

「本当に被害を受けたニューヨークの中小企業のオーナーたちに行くべき基金を横から奪うような行為です。勇敢で思いやりのあるニューヨークの人々からの搾取行為により、あなたの腹の中がよくわかりました」とナドラー議員は書いている。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、この書簡に対しトランプは、「9・11以降何ヶ月もの間、人々をビル内に住まわせ、ビルの施設や店の物を提供した。私は喜んでそうしたし、今日に至るまで私が助けた多くの人々から感謝されている。私がしたことは、今回受け取った金額よりもはるかに価値が高い」。トランプは、ローリングストーン誌からのコメント依頼に対して返答していない。またクリントン陣営はコメントを拒否している。

この件は、ロールシャッハ・テストのようなものである。クリントンとトランプの支援者たちは、それぞれの候補者に尊敬すべき点を見出している。クリントンに対しては、9・11など悲劇的な事件の後も有権者のために精力的に働いてくれる公僕の姿を見ているだろう。そのようなクリントン支持者たちはドナルド・トランプの行為に対し、ナドラー議員と同じように軽蔑の気持ちを持つに違いない。

一方のトランプ支持者たちにとっては、彼らの支持する不動産王がビジネスの最善策を取ったにすぎず、アメリカに仕事を取り戻し、最低賃金を保証し、法人税等を大幅に減税する、という彼の公約を体現したのだ、と映るだろう。トランプ支持者たちはクリントンのロビー活動を無駄なこととみなし、クリントンとハイチ問題とを結びつけようとする。クリントンは国務長官時代、ハイチで発生した大地震の復興支援のために約130億ドルの国際支援を取り付けたが、その資金が行くべきところへ行っていない、と主張する人々もいる。

これらの数十年に渡るエピソードから、トランプとクリントンそれぞれの大統領像が見えてくる。そういう意味では、9月11日に個別の選挙活動を行おうが、大統領選の11月8日まで何もしなかろうが、大きな問題ではない。ひと握りの浮動票を除けば、大半の人々は既に心を決めているのだから。



Translation by Smokva Tokyo

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