映画『世界一キライなあなたに』: 四肢麻痺の患者を介護し、そして恋に落ちる感涙ストーリー

もちろん、彼女はもう少し控えめにすることもできただろう。だが、クラークはもともと愛らしく、クラフリンは見事に冷静で辛辣だ。ウィルはルーにモーツァルトや外国映画を教え、密かにマイケル・ベイの『アルマゲドン』が大好きなことを認める(私には理解できない)。彼はルーのファッションセンスをバカにしているが、定石通り、ありのままの彼女に心を奪われるのだ。2人の役者がともに、力強い印象を残す場面が幾つかある。ウィルが車椅子にルーを乗せて、ダンスフロアを回転するシーン。彼女の首筋をじっと見つめ、彼は「僕が車椅子に乗っていなかったら、キミの胸には近寄れなかっただろうね」と語る。2人は何度かPG-13程度の軽いキスをして、ルーはウィルに生きることで広がる可能性を見せようとする。しかし、セックスと鬱憤が絡み合い事態が不穏になると、映画はそこから目を背けさせる。脚本も手がけたモイーズの原作のごとく、映画は苦しみを美しさで取り繕っている。ウィルの世話にまつわる困難な役割を担うのは、男性介護士で彼を見守るネイサン(スティーブン・ピーコック)。どのキャラクターも素晴らしく、愛さずにはいられない。

典型的なハリウッドのナンセンス映画でしかない作品に、私が不意を突かれているようだとしたら、それは『世界一キライなあなたに』がシーア・シェアイックの長編監督デビュー作だから。シェアイックはイギリス演劇界を牽引するベテランであり、お涙頂戴もので揶揄されることなど無縁の人物である。アメリカの主要な障害者団体は、この映画を批判している。深刻な障害を抱えながらも充実した豊かな人生を送る多くの人々に、自殺したほうが良いかもしれないと暗示しているというのだ。私は、『世界一キライなあなたに』がそのような作品とは思わない。しかし、映画で取り上げている本質的な問題に、十分に深く向き合っていないことも確かだ。興行成績につながりやすい、涙を誘うストーリーの範囲内にとどまっている。それでも、恋愛映画として申し分ないビタースウィートな作品で、2人の若手スターの輝きに魅せられる観客を、そう責めることはできない。



『世界一キライなあなたに』
監督:テア・シェアイック
配給:ワーナー・ブラザース映画
出演:エミリア・クラーク、サム・クラフリン、ジャネット・マクティア、チャールズ・ダンス、ブレンダン・コイルほか
2016年10月1日(土)より全国の劇場にて順次公開
https://warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/

Translation by Sayaka Honma

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