映画『スター・トレック BEYOND』:長寿シリーズが辿り着いた境地

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過去に描かれたテーマを再訪しつつも、愛され続けるSFシリーズが誇るレトロという魔法。

フューチャリスティックなタイトルとは裏腹に、『スター・トレック BEYOND』におけるハイライトはレトロなシーンの数々だ。J・J・エイブラムスからバトンを受け取ったジャスティン・リンが監督を務めた『スター・トレック』劇場版最新作には、『ワイルド・スピード』シリーズ4作を手がけたリンならではのスピード感が反映されている。とはいえ、リンは『スタートレック』シリーズが持つ長い歴史に敬意を払うことも忘れない(同作のファンの大部分は50周年記念エディションの発表に涙した人々だ)。本作は、初代スポックとして広く愛され、昨年83歳でこの世を去ったレナード・ニモイ、そして過去2作でロシア人操縦士のチェコフを演じるも、27歳という若さで事故死したアントン・イェルチンの2人に捧げられている。

作品の出来は見事だと言える。ジーン・ロッデンベリーが生み出したテレビシリーズのエピソードを巨額の予算で生まれ変わらせた『スター・トレック BEYOND』は、キャラクターたちの魅力に即効性がないなど、出だしのインパクトに欠ける印象は否めない。しかしストーリーが進行するにつれて、登場人物たちはその魅力を増していく。思慮深さをうかがわせるキャプテン・カーク(クリス・パイン)とスポック(ザカリー・クイント)は、その最たる例のひとつだ。惑星連邦を目指す5年間の航海の途中で、カークは中将への昇進を提案されるも、その役職に相応しいのはスポックだと考える。一方、スポック・プライム(ニモイ)の死、そして恋人のウフーラ(ゾーイ・サルダナ)との破局を経験したスポックは、自身の人間としての側面を放棄し、母星バルカンで家庭を持つことを考える(そこには種の保存への思いも絡んでいる)。2人の長寿キャラクターに新たな魅力をもたらした、パインとクイントの見事な演技は称賛に価する。


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エンタープライズへの襲撃をきっかけに、その不穏なムードは解消される。ここで光るのが脚本を手がけたダグ・ユング、そしてスコッティ役を演じたサイモン・ペグの手腕だ。スールー(ジョン・チョウ)が夫と娘とハグをするシーンが登場するエイリアンたちの楽園(スールーはゲイである。初代スールーを演じたジョージ・タケイ本人はゲイであることを公言しているが、作品におけるこの設定には不満だという)、ヨークタウンの宇宙ステーションに停船していたエンタープライズは救出ミッションに参加するも、目的地で敵の奇襲にあってしまう。クラール(イドリス・エルバ)率いる敵の群衆はエンタープライズを粉々に破壊し、クルーはそれぞれエイリアンが支配する惑星アルタミッドでの別行動を強いられる。

Translation by Masaaki Yoshida

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