ビートルズ『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』:レアなデモ・テイクを通じて名作を振り返る

ジョン・レノンがポータブルレコーダーに録音したデモテープから、最終的にジョージ・マーティンの手で壮麗な曲に仕上げられた。 Michael Ochs Archives/Getty


レノンのひらめきで、我々の現在知る新たな歴史が刻まれた。

そして50年前(1966年)の11月24日、レノンはアビー・ロード第2スタジオに曲を持ち込み、他のメンバーとプロデューサーのジョージ・マーティンに聴かせた。エンジニアのジェフ・エメリックはその時のことを覚えている。レノンは「とてもグレートな曲だ」と言うとアコースティックギターを持ってスツールに腰掛け、これからその曲に関わっていく皆に歌って聴かせた。

約1時間の音源を集めたブートレッグ盤『It’s Not Too Bad』には、スペインからケンウッド、そしてロンドンのスタジオまで、『ストロベリー・フィールズ』の誕生から完成までのプロセスが記録されている。さらに最初のフル・スタジオ・テイクまで聴くことができる。所が1996年にリリースされた『アンソロジー2(原題:Anthology 2)』に収められた同曲のテイク1では、なぜかポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンの絶妙なバックコーラスが削られてしまっている。

『ストロベリー・フィールズ』の有名なファイナル・バージョンは誰もが好きになるだろうが、この完成前の初期テイクもきっと気にいるだろう。気心の知れた仲間たちの前のレノンは、オーディエンスの前では決して見せないのびのびとした歌い方で、歌い出しはファイナル・バージョンよりもむしろこちらの方がよいのではないかとさえ思わせる。

曲を支える楽器のまるで天国で天使が奏でているような美しいメロディが、スローダウンしたジミー・リード風のブルース・ビートと調和している。

もしレノンがそこでOKを出しさえすれば、このバージョンがリリースされたのではないだろうか。しかし果たしてそれがヒットしただろうか? そこで天才が熟考した。自分の内面を掘り下げ、他人にも理解できるように表現するにはどうしたらよいだろうか? 壮大なサビやバックコーラスはなくてもよいのか? 

その理由は誰も知るよしもないが、とにかくレノンはこれで満足しなかった。4日後、違ったアレンジが試された。これもブートレッグ『It’s Not Too Bad』で聴くことができる。さらに、ファイナル・バージョンにつながるリンゴ・スターのオーケストラ的なアプローチのドラムと、よりステップアップしたハリスンのギターをフィーチャーしたヘヴィな別バージョンも録音されている。そうして曲に繊細な厚みを加えながらよりよい音を追求していった。

これはプロト・メタルにも近いバージョンだった。レノンは天使のような美しいバージョンがいいか、それともノリのよい方がいいか決めかねていた。そこでプロデューサーのジョージ・マーティンに、「2つのバージョンをミックスしくれ」と言ったのは有名な話である。それはとても現実的なアイディアではなかった。

「それを実現するには2つの大きな問題がある。ひとつはキーが違うこと。もうひとつはテンポが違うこと」と、マーティンはレノンに言った。

しかし、スペインからずっとこの曲に真摯に向き合ってきたレノンにとって、そんなことは曲を完成させるためのただのひとつのプロセスでしかなかった。

「ジョージ、君ならできるさ」とレノンは言い放った。それからマーティンは、2つの全く異なるバージョンのミックス方法を考え出すのに悩み苦しんだ。それは、音楽の物理学の法則をひっくり返すような作業だった。

ビートルズ・ファンなら誰でも、この問題の解決のためマーティンは片方のバージョンの再生スピードを落としてもう一方のスピードを上げ、音楽学者でなければ判断がつかないほど、なるべく自然に聴こえるようにキーを合わせたことを知っている。

多くの人々は『ストロベリー・フィールズ』といえばレノンを連想するが、そこには印象的なポール・マッカートニーのメロトロンをはじめ、バンド仲間たちの大きな力が結集されている。とにかくこうしてビートルズを代表する曲のひとつが完成した。

所がレノン自身はファイナル・バージョンに満足していなかったということは、ほとんど知られていないだろう。恐らくレノンは、いつか違うバージョンを作り直したい、と思っていただろう。残念ながら叶わなかったが。故郷のストロベリー・フィールドへの旅、そして楽曲『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』が完成するまでのスペインから始まった旅こそが、レノンが本当に追い求めていた音楽そのものだったのだろう。

Translation by Smokva Tokyo

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