パティ・スミスが語る、ノーベル賞授賞式:"極度の緊張状態"だった

ノーベル賞授賞式でボブ・ディランの『はげしい雨が降る』を歌ったパティ・スミスは"極度の緊張状態"だったという (Photo by Pascal Le Segretain/Getty Images)

パティ・スミスは、ノーベル賞授賞式で披露したディランの曲『はげしい雨が降る』に対する強い思い入れを、心打つエッセイの中で自ら語った。

ノーベル賞授賞式でパティ・スミスは、ボブ・ディランの曲『はげしい雨が降る(原題:A Hard Rain’s A-Gonna Fall)』を感情豊かに表現した。彼女はそのパフォーマンスに込めた思いを、ザ・ニューヨーカー誌へのエッセイで明らかにした。心を打つ文章の中でスミスは"極度の緊張状態"だった様子を明らかにし、彼女の人生に大きな影響を与えたディランと、彼女が選んだ曲への思いを語った。

スミスは以前ローリングストーン誌に対し、授賞式でのパフォーマンスを打診されたのはディランの文学賞受賞決定前のことで、当初は自分の曲を演奏することを予定していたと明かしていた。今回のニューヨーカー誌に寄せたエッセイでスミスは、ディランの『はげしい雨が降る』を選んだ理由も語っている。彼女はティーンエイジャーの頃からこの曲が大好きで、彼女の亡き夫フレッド・スミスのお気に入りでもあったという。彼女が最初に聴いたディランのアルバムは『フリーホイーリン・ボブ・ディラン(原題:The Freewheelin’ Bob Dylan)』で、それは彼女の母親からのプレゼントだったというエピソードも披露している。

スミスは、授賞式で披露するディランの曲を"寸暇を惜しんで"練習したという。そして授賞式の朝は"一抹の不安"と共に目覚めたが、楽曲を再度チェックし、自信を持ってストックホルム・コンサートホールの授賞式へ向かった。

「イントロのコードが流れ、自分の歌声が聴こえた。声が震えたけれど、まずまずの出だしだった。"落ち着かなきゃ"と思ったけれど高ぶってしまい、押し寄せる感情の波に自分をコントロールできなくなってしまった」と、当日のパフォーマンスについて書いている。

「巨大なカメラ機材や、ステージ上の来賓、客席の人々の姿が視界の片隅に入ってきた。今までに味わったことのない緊張感に見舞われて、歌い続けることができなくなってしまった。今や私の一部分となっている曲の歌詞を私が忘れるはずがない。単に声として出てこなくなってしまっただけ」と続けた。

当夜のビデオを見返してみると、スミスが感情を抑えようとしている様子がよくわかる。「経験したことのない感情が静まらず、やり過ごすこともできず、私の中に留まり続けた。失礼かと思ったが歌うのを止めざるを得なかった。興奮状態のままフラフラな状態だったけれど、心をこめて歌い続けた」。

曲の出だしの歌詞「霧につつまれた12の山々をフラフラしながら歩き続けた(I stumbled alongside 12 misty mountains)」や、最後の「歌い始めるまではその曲の本当の意味を理解できない(And I’ll know my song well before I start singing)」はまさに私の状況に当てはまり、よく理解できた。歌い終えて席に着いた時、失敗してしまった恥ずかしさでいたたまれない気持ちになった。でもそれと同時に、これでようやくこの歌の世界に入り込み、実体験できたという不思議な感情も芽生えた」。

彼女自身も認める"公の場での葛藤"に苦しんだ一方で、授賞式の翌日たまたま出会ったノーベル賞を受賞した科学者たちの優しさにも触れることができたという。スミスは、将来に目を向けた話でエッセイを締めくくっている。スミスは生まれ故郷シカゴのリヴィエラ・シアターで行われる(2016年)12月30日のコンサートで、彼女のバンドや息子、娘たちと共にデビューアルバム『ホーセス(原題:Horses)』の曲を演奏するという。その日は彼女の誕生日でもある。「これまでに私自身の見てきたことや経験してきたことは、すべて私の中にある。そして過去に私の感じた強い後悔の念も、時の流れと共に喜びに変わる。70年の時の流れ。そして人として生きた70年間」。

パティ・スミスは2016年大晦日にも、シカゴ(パーク・ウエスト)でコンサートを開く。

Translation by Smokva Tokyo

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