ローリングストーン誌が選ぶ、2016年の知られざる名盤15枚

インバーロック『ディスタンス・コラプスド』
(原題:Inverloch, ’Distance Collapsed’)


オーストラリアの変人4人組による、ディスエンバウエルメントという奇妙な名前のバンドは、90年代前半に数枚の作品を残している。ドゥームメタルとデスメタルを独自の解釈で融合させた彼らは、1993年に傑作『トランセンデンス・イントゥ・ザ・ペリフェラル』を発表した直後に解散する。あれから約20年の時を経て、ディスエンバウエルメントのリズムセクションの2人が結成したインヴァーロックは、同バンドが備えていた魅力を見事に再現してみせている。黒魔術のような謎めいた呪文から、デッド・キャン・ダンスを彷彿とさせるムーディーでメロディックなトレモロギターまでもが飛び出すデビュー作『ディスタンス・コラプスド』には、地獄に生きる亡者たちの怨念が宿っているかのようだ。暗黒版ニューエイジと呼ぶべき本作には、美しくも陰鬱なムードが一貫して漂っている。Kory Grow


ジャンビナイ『ア・ハーミテージ』
(原題:Jambinai, ’A Hermitage’)


セパルトゥラが『ルーツ』でブラジルの民族楽器ビリンバウを取り入れたように、韓国のオルタナ・メタルバンドのジャンビナイは、『ア・ハーミテージ』で韓国の伝統的な楽器であるコムンゴのサウンドを独自に解釈してみせた。原始的でエキゾチックな魅力を放つコムンゴとエレクトリックギターのアンサンブルによって、ジャンビナイは唯一無二の爆発的なエネルギーを生み出す。ニューロシス以降のダークでムーディなサウンドはポストロック的だが、彼らの2枚目となる本作の真の魅力は簡潔でタイトな曲群にある。韓国の伝統音楽Hyangakをスラッジメタル的に解釈してみせた『Deus Benedicat Tibi』、アンフェタミン・レプタイルにも通じるハードなノイズロックと、ツィターを思わせる弦楽器のサウンドを融合させた『ワードローブ』や『ゼイ・キープ・サイレンス』は、本作における紛れもないハイライトだ。Christopher R. Weingarten


シューター・ジェニングス『カウンタック』
(原題:Shooter Jennings, ’Countach (for Giorgio)’)


ダンスミュージックのパイオニアのジョルジョ・モロダーに捧げれらたこの思いがけないアルバムで、シューター・ジェニングスは自身の多様な音楽的バックグラウンドを表現する術を確立してみせた。アウトローなカントリー(アルバムのオープニングでは父親のウェイロン・ジェニングスの『アウトロー・ビット』をサンプリングしている)からムーディなプログレロック(マリリン・マンソンと共演したデヴィッド・ボウイの『キャット・ピープル』のカヴァー)、そしてアッパーな80’sポップ(ブランディ・カーライルがヴォーカルを務める『ザ・ネヴァー・エンディング・ストーリー』)まで、本作にはジェニングスの様々な一面が反映されている。それでいて雑多な印象を受けないのは、サム・キニソンの雄叫び、遊園地のコマーシャル、ビデオゲーム界の重鎮Richard Garriott de Cayeuxのスピーチ等、ポップカルチャー・オタクとしての彼の遊び心が随所に現れているからだ。それでも本作の核になるのは、やはり原曲への敬意が感じられるモロダーの曲群のカヴァーと、彼が世に広めたシンセサイザーのサウンドだ。

Translation by Masaaki Yoshida

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