ドアーズ『ハートに火をつけて』:知られざる10の事実

5.『ジ・エンド』のレコーディング時、LSDの影響下にあったジム・モリソンはスタジオに侵入し、消化器を噴射した


音楽と演劇の中間にあるような『ジ・エンド』は、ライブにおけるハイライトであると同時に山場でもあった。特にギリシャ神話の『オイディプス王』にインスパイアされたという、曲中に登場する長尺のポエムを考案したモリソンにとって、『ジ・エンド』は大きなプレッシャーとなっていた。ステージ上で同曲を披露することも容易ではなかったが、レコーディングブースという孤独な場で、バンドのメンバーとプロデューサーのポール・ロスチャイルド、そしてエンジニアのブルース・ボトニックを前に同曲を歌うことに、モリソンは大きなプレッシャーを感じていた。

「ブースの照明を落とし、コントロールルームに背を向けたジムの隣ではキャンドルの火が揺れていた」スティーヴン・デイヴィス著『Jim Morrison: Life, Death, Legend』において、ロスチャイルドはそう語っている。「キャンドルとVUメーターの光を除けば、スタジオは真っ暗だった」さらに集中力を高めようとしたモリソンが求めたもの、それはLSDだった。

その効果はパフォーマンスに好影響をもたらしたかに思えた。しかしプレイバックの最中も落ち着かない様子のモリソンを前に、クルーガーたちは「キマりすぎていてセッションの続行は不可能だった」と判断した。レコーディングの続きは翌日に持ち越されることになったが、その後モリソンは思いがけない行動に出る。

「『ジ・エンド』のレコーディングで、彼はスタジオを滅茶苦茶にした」クリーガーは作家のミック・ホートンにそう語っている。「その日のレコーディングを終えた後、完全にキマったままだったジムは家に帰ろうとしなかった。俺たちは気にせず帰宅したけど、戻ってきたジムはスタジオに誰もいなかったことに腹を立てて、スタジオ内で消火器を噴射したんだ」

ミック・ウォール著『Love Becomes a Funeral Pyre』において、ボトニックはそのエピソードについてこう述べている。「(ジムは)通りを挟んだカトリック教会のBlessed Sacramentに向かい、そこで啓示を受けたと話していた。彼はスタジオに戻ってきたが、ゲートは施錠されていた。彼はゲートを乗り越えて侵入したが、コントロールルームには鍵がかかっていて中に入ることはできなかった。しかしスタジオスペースは開放されていて、赤いランプの光がジムの目に映った」陶酔状態にあったモリソンの脳は、その赤い光を炎として認識した。「スタジオが燃えていると勘違いした彼は、吸殻が山のように積もった灰皿をなぎ倒し、消火器を噴射した」

しかし、マンザレクの記憶は少し違うようだ。彼の自伝『Light My Fire』によると、モリソンのガールフレンドだったパメラ・カーソンの車で自宅へと向かう途中、彼は火事が起きていると騒ぎ始めたという。モリソンの執着ぶりに観念したカーソンは不本意ながら引き返し、スタジオに到着するやいなや、モリソンはフェンスをよじ登って中に入っていったとされている。「場所がコントロールルームじゃなかったのは不幸中の幸いだった。ジムの目には俺たちの機材が燃えているように見えていたんだろう」結果として、フルサイズのハープシコードを含むバンドの機材の大半がスクラップになったという。

その翌日、現場にはモリソンのブーツの片方が残されていた。「スタジオの人間たちはパニックになっていた」マンザレクはそう話す。「ポール(・ロスチャイルド)はこう言った。『心配するな、エレクトラが全部買い直してくれるさ。警察は無用だ』でも犯人がジムだってことは、誰の目にも明らかだった」唯一その事実を受け入れようとしなかったのは、言うまでもなくモリソン本人だった。「あれを俺がやったって?嘘だろ?」彼は翌日の朝食の席で、デンズモアにそう話していたという。

事件発生直後、エレクトラの社長ジャック・ホルツマンは、スタジオのオーナーであるトゥッティ・カメラータに多額の小切手を渡している。「現場を目の当たりにしてこう言ったよ。『残念ながら修復は不可能なようだ。私が賠償する』」彼はMojo誌にそう語っている。事態こそ収束したものの、クリーガーはその事件が以降のモリソンに大きな影響を与えたと話す。「あの事件以来、ジムは自分が何をやっても許されると考えるようになった」

Translation by Masaaki Yoshida

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