ドアーズ『ハートに火をつけて』:知られざる10の事実

(Photo by Mark and Colleen Hayward/Getty Images)

クレジットされなかったベーシストの存在、レコーディングスタジオで起きたジム・モリソンのメルトダウン、メンバー間に深い溝を生んだビュイックの広告、ロック史に名を残す名盤の知られざる10の事実とは?

バイエルン特有のブラスバンドのリズムとウィリー・ディクソンのシカゴ・ブルース、バッハのメヌエットとジョン・コルトレーンのプレイスタイル、12世紀のケルト民話と太古のギリシャ神話、そういった相反する要素を融合させつつ、内に秘めた苦悩をサイケデリックなサウンドで表現してみせたドアーズの『ハートに火をつけて』は、ロック史において最もユニークなデビューアルバムのひとつだろう。『ブレーク・オン・スルー』『ジ・エンド』、そして『ハートに火をつけて』等、同作には今なお色褪せない不朽の名曲の数々が収録されている。

詩人/ヴォーカリストのジム・モリソン、キーボーディストのレイ・マンザレク、ギタリストのロビー・クリーガー、ドラマーのジョン・デンスモアからなるザ・ドアーズは、サンセット・ストリップのウィスキー・ア・ゴー・ゴーのハウスバンドとして活動していた。『ジ・エンド』が『オイディプス王』を冒涜しているという理由で解雇された直後、彼らがサンセット・サウンドでわずか1週間のうちに完成させたアルバムは、ほとなくしてロサンゼルスのシーンを席巻することになる。「事実上、1作目はザ・ドアーズのライブアルバムだ」バンドのドキュメンタリー『Classic Albums: The Doors』で、マンザレクはそう語っている。「オーバーダビングはほとんどやっていない。録ったのはレコーディングスタジオだが、実質的な内容としては『The Doors: Live from the Whisky a Go Go’』だ」

彼らのデビューアルバム『ハートに火をつけて』には、バイタリティに満ちた4人のアーティストが生み出す、生々しくヒプノティックな魅力が見事に封じ込められている。その発売50周年を記念し、同作にまつわる知られざる10の事実を以下で紹介する。

1.『ハートに火をつけて』は、ロビー・クリーガーが初めて書き上げた曲だった


ロビー・クリーガーはロック史上最大のビギナーズ・ラックを掴んだギタリストだった。作曲経験のなかった彼が若干20歳にして完成させた『ハートに火をつけて』は、ナンバーワンヒットとなっただけでなく、後のサマー・オブ・ラヴ・ムーヴメントを象徴する曲となった。

「あれは俺が初めて1人で書き上げた曲だ。それまではジムが作曲を担当してた」2016年に彼はReverbにそう語っている。「俺たちはオリジナル曲を増やさないといけなかった。それでジムにこう言われたんだ。『お前も書いてみたらどうだ?俺一人に任せっきりってのはあんまりだからな』何についての曲を書くべきかアドバイスを求めると、彼はこう答えた。『風化することのない、ユニバーサルでタイムレスな何かさ』それで俺は地球、空気、火、水(のいずれか)についての曲を書こうと決めた」彼が火を選択した理由のひとつは、ローリング・ストーンズの『プレイ・ウィズ・ファイア』を気に入っていたからだという。

数日間に渡って作曲に取り組んでいたクリーガーは、ロックにおけるスタンダードなコード進行を意図的に避けようとしたという。「当時のドアーズの曲のほとんどは3コードのシンプルな構成だった。『君を見つめて』『エンド・オブ・ザ・ナイト』なんかがいい例だ」Clash Musicのインタビューで、彼はそう語っている。「もっと実験的な曲を書きたいと思っていた俺は、知ってるコードを全部使うことにした。あの曲に14ものコードを使われているのはそういう理由さ」同曲のメロディは、当時ヒットしていたロサンゼルスのザ・リーヴスの『ヘイ・ジョー』にインスパイアされたという。

ヴァースとコーラスを仕上げた時点で、彼はメンバーに曲を聴かせた。その段階ではフォーク・ロック色が強く、ソニー・アンド・シェールの曲に似ていると揶揄する声もあったという。しかしそのポテンシャルに目をつけたモリソンは、歌詞の一部を書かせて欲しいと申し出た。「セカンド・ヴァースに出てくる火葬用の薪の部分はジムが書いたんだ」『Classic Albums: The Doors』でクリーガーはそう語っている。「お前のリリックは何でいつも死についてなのかって俺が尋ねると、彼はこう答えた。『これでいいのさ。お前が愛を、俺が死を表現する。最強のコンビネーションじゃないか』彼の言うとおりだと思ったよ」

その後マンザレクがバッハを思わせるイントロ部とベースライン(ファッツ・ドミノの『ブルーベリー・ヒル』にインスパイアされたという)を考案し、デンズモアがラテンのリズムを持ち込んだ。その翌年にリリースされた同曲の作曲者クレジットは、ザ・ドアーズとなっている。

Translation by Masaaki Yoshida

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