賛否両論の『最後のジェダイ』、監督の作家性とSWの関係

『最後のジェダイ』撮影中のライアン・ジョンソン(David James)

ファンの間で賛否両論を呼ぶ『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』、壮大な『スター・ウォーズ』の物語を生まれ変わらせたライアン・ジョンソンのパーソナルな視点とは?

※本記事には本編のネタバレを含む内容があります。

『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の序盤には、ファンが見慣れた光景が登場する(ここから先はネタバレを含むが、ファンの多くは既に視聴済みだと仮定する)。宇宙船の艦橋に立つファースト・オーダーの司令塔(独裁者のシンボルであるスーツに身を包んだハックス将軍)は、眼下に見据えた惑星に築かれた反乱軍の基地の完全破壊を命じる。迎え撃つ百戦錬磨のヒーロー、ポー・ダメロンはX型のウイングが印象的な戦闘機に乗り込み、信頼を寄せるBB-8を通じて敵陣営の通信システムへアクセスし、敵リーダーとの対話を試みる。

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ヒストリー』におけるウィルハフ・ターキンのCGI合成シーンを繰り返し観ていたであろうドーナル・グリーソン演じるハックス将軍は、かつて帝国を率いたターキンと同じ行動をとる。ハックス将軍は顕著なブリティッシュアクセントで、勢いよく唾を撒き散らしながら、基地を破壊し反乱軍を根絶やしにすると宣告する。その直後、雑音混じりの通信機からは思いがけない返事が聞こえて来る。「ハックス将軍はまだか?」

どんなに緊迫した状況下でも軽口を叩けるダメロンだが(『フォースの覚醒』で、カイロ・レンにどちらが先に話すかと彼が尋ねるシーンを覚えているだろう)、その思いがけないリアクションはセリフの続きをかき消してしまうほど大きな笑い声を客席に巻き起こした。『スター・ウォーズ』におけるやや陳腐なユーモアは旧三部作の頃から続くお約束だが、このやり取りには不思議な今っぽさが感じ取れる。ポーは同じ発言を繰り返して爆笑を誘い、相手の母親をネタにした定番ジョークを持ち出す。

その後、舞台は宇宙の遥か彼方にある惑星へと移り、レイはルーク・スカイウォーカーにライトセーバーを手渡す。放浪生活を送る田舎の少年から、フォースを操るヒーローとなり、エディプスコンプレックスに悩まされる片腕の戦士へと変貌し、人里離れた孤島で隠遁生活を送っている。傷付いた瞳とオビ・ワン譲りの口ひげは哀愁を漂わせ、その表情には無数の葛藤が見て取れる。かつて自身の父親の命を奪った圧倒的な力は、今では完全に抑制されている。

そして彼は振り返ることもせず、ライトセーバーを崖の向こう側に放り投げてしまう。

前者のシーンの意外性(「チクショー!」という発言などは過去の『スター・ウォーズ』では考えられなかった)に驚いた観客は、後者のシーンでは頭を殴られたかのような衝撃を覚えたに違いない。しかし物語の象徴とも言えるライトセーバーをあっさりと投げ捨てるその場面は、衝撃的であるにもかかわらず必然的に感じられる。『スター・ウォーズ』という壮大な物語の舵取りを任されたライアン・ジョンソンが今作で試みたことは、この2つのシーンに集約されていると言っていい。彼は物語を掘り下げると同時に、よりカジュアルな方向へとシフトさせてみせた。その歴史に敬意を払いながらも、彼は我々をその呪縛から解き放とうとしたのだ(カメオ出演しているシリーズ屈指の人気キャラクターを含む、主要人物3人が過去を断ち切ろうともがくことは、彼なりの皮肉であるに違いない)。今作がシリーズを「救う」という声は少なくないが、やはりそれは主観でしかない。今作は我々の父親世代が愛した『スター・ウォーズ』でもなければ、我々の世代に向けられたものでもない。『最後のジェダイ』は、ライアン・ジョンソンが自分自身のために作った作品なのだ。

メリーランドで生まれ、幼少期をコロラドで過ごし、南カリフォルニア大学で学んだジョンソンは、2005年にサンダンス映画祭で公開された『BRICK ブリック』で注目を集めた。ノワール映画の影響を色濃く残した、南カリフォルニアの高校を舞台とする同作のスクリーニングに出席した幸運な人々は、彼の才能に舌を巻いたに違いない。『サード・ロック・フロム・ザ・サン』で名が知られるようになったジョセフ・ゴードン=レヴィットの新たな一面を引き出した同作は、ダシール・ハメットの作風と『デグラッシ・ハイ』のノリをマッシュアップしたかのような作品だった。ジャンルにおけるルールを熟知した上で、その枠に収まらない作品を生み出すジョンソンの手腕は高く評価された。しかし次作『ブラザーズ・ブルーム』(2008年)ではそういった評価を覆し、評論家たちを戸惑わせた。詐欺師の兄弟と奇妙な女性が登場するこの陳腐な映画は一体何なのか? The Directors Bureauのオーディション目的で制作されたのでは? 『BRICK ブリック』のあの役者をなぜ起用しないのか?

Translated by Masaaki Yoshida

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