ケヴィン・シールズ日本独占インタビュー後編、「老い」とは別バージョンの自分になる感覚

クリーンなサウンドも必要で、歪ませるだけではダメなんだ

─私は昨年暮れにアイスランドで行われた、シガー・ロス主催のフェス「Nordur og nidur」(読み:ノルズル・オグ・二ズル)へ行き、あなたのソロ・ライブを観ました。そのときの楽曲は、ソロ用に書き下ろしたものだと終演後に聞いて、メチャクチャ驚いたんですよ。創作のモチベーションって、常に安定してキープされているものなんですか?

ケヴィン 大抵1週間のうちの何日かは、曲作りを含めて集中して作業に取り組んでいるよ。このあいだのソロ・ライブでやった曲に関しては、あのとき君に話したように、それ用に書き下ろしたものだ。今、取り組んでいる新作と同様、それまでに書き留めておいた曲や、アイディアの断片をまとめて曲に仕上げた。ある意味ではチャレンジでもあるよね、「ライブに向けて自分はどれだけ曲を用意できるのか?」という。しかも、そのライブのため「だけ」の曲をね。あとは、この短い期間で作った「スナップショット」的な曲だけでも、ライブを成立させられるのか?という実験でもあった。思ったんだけど、毎月こういうライブを予定して、その度に5曲ずつ作っていけばアルバム1枚くらいすぐ出来ちゃうよね。

─(笑)。

ケヴィン 果たしてそれを自分がやるか、実際にやったとして楽しめるか?っていうのはまた別問題だけど、そういうことを心から楽しんでいるアーティストもいる。何にせよ、曲作りは好きなんだ。だから、多少のムラはあったとしてもコンスタントに取り組んでいるよ。

Nordur og nidur
ケヴィン・シールズ、「Nordur og nidur」出演時のライブ写真(Photo by Takanori Kuroda)

─ソロ・ライブで演奏した曲は、メロディラインがダイナソーJr.やスペースメン3を彷彿とさせるところもありました。そういったルーツに立ち返った楽曲を作りたいという気持ちもあったのかな?と思ったんですが。


ケヴィン 影響という点では、ダイナソーJr.の方が大きいかな。特にJ・マスキスの大ファンで、彼のやっていること全般から常に刺激をもらっている。もちろん、スペースメン3も偉大な存在だよ。はじめから彼らは個性的だったし、特に1986年くらいまでは僕らなんかよりもよっぽどすごいバンドだった。1987年にはオリジナリティを確立していたし、その頃の僕らはまだ遊びで音楽をやっているような状態だったからね。

─あなたのギターサウンドに関しては、ソロのときでも唯我独尊というか。よく「シューゲイザー」という言葉で語られますが、他のどのバンドとも違いますよね。

ケヴィン まず、シューゲイザーと呼ばれていたバンドと僕らは時期的なズレがあるんだ。1988年当時、僕らが自分たち独自のサウンドを求めて試行錯誤していた頃は、ダイナソーJr.やスペースメン3、ジーザス&メリーチェインがいた。で、彼らの影響を受けた僕らが『Isn’t Anything』を発表し、その後に出てきたのがいわゆるシューゲイザー、ライドやラッシュ、チャプターハウスといった連中なんだ。そこには1年くらいのズレがあるんじゃないかな。しかも、『Loveless』のベーシックトラックは、彼らがシーンに登場する前に作り上げていたから、僕らは「シューゲイザー」の一員であるという実感が全然ないんだよ。自分としてはダイナソーJr.が一番近いと思っているし、彼らのような「ロックバンド」を目指していたわけだからね。

─そのダイナソーJr.をケヴィンに勧めたのが、当時付き合っていたビリンダだったというのも感慨深いです。

ケヴィン 僕らが他のどのバンドとも違う、個性的な存在でいられたのは、そうしたシーンとの絡みなしに、自分たちのフィーリングだけで音楽を作ってきたからだと思う。『Loveless』をもう少し早くリリースできていれば、僕らがシューゲイザーって呼ばれることはなかったんじゃないかな?とも思うんだ。そんなわけで、当時プレスはいろいろと書きたがったけど、彼らに対してライバル意識も特になかったよ。彼らの音楽は聴いていたし、好きだし、人間的にも魅力的な連中ばかりだったしね。

Kevinケヴィン・シールズ「Nordur og nidur」出演時のエフェクター類(Photo by Takanori Kuroda)

─となると、あなたのギターの「独自性」はどこから生まれたのでしょう。そしてそれを、ライブではたった1本のギターでどうやって再現しているのか……。ソロライブでのギターワークは、パティ・スミスとのコラボ作『The Coral Sea』(2008年)を踏襲したものだと先日おっしゃっていましたけど、そもそもなぜ、いつもあんなにアンプを並べているんですか?

ケヴィン 『Isn’t Anything』や『Loveless』のレコーディングで試したのはチューニングだね。オープン・チューニングを多用した。それと、さっき(前編)も話した「トレモロアーム奏法」との組み合わせかな。サウンドは、ディストーションとヴォリュームペダルを中心に、様々なエフェクターの組み合わせで作っているのだけど、VOXアンプで鳴らしているのも大きい。しかも、歪みだけではダメなんだ。クリーンなサウンドも必要で、その「陰陽」のバランスが僕のギターサウンドの特徴になっていたのだと思う。クリーンはクリーンで極端に、歪みは歪で思いっきり歪ませて、それを僕自身がミックスしてそのバランスで音を作っていた。ただ、やり方が確立していなかったからなかなか大変だったんだ。

─さっき(前編)もおっしゃっていましたが、バランスがものすごく重要だったのですね。

ケヴィン そう。で、ライブではいろんな種類のアンプを用意して、その組み合わせによってサウンドを作っている。例えばアンプを5台使えば、5通り以上のハーモニクスの変化を作り出せるんだ。つまり弦のチューニングと、エフェクターと、トレモロアーム奏法でアウトラインを作り、アンプの組み合わせでさらに音を拡張させる。そのために、たくさんのギターアンプが必要なんだよ。

Translated by Kazumi Someya

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