80年代生まれの焦燥と挑戦:山内マリコ 「いい時代を知らないからこその強みがある」


― 皆がもう第一期を終えるときにやっと夢を叶えに東京へ出てきた、と。そこから投稿で1年半後に賞を獲り、デビューに至ったのが32歳であると。


山内 小説の新人賞を受賞したのは27歳のときですね。でも出版社とうまくいかなくて、そこからデビュー作『ここは退屈迎えに来て』を出すまでに、4年もかかってしまって。気がついたら30の大台を越えてました。その1年後に『アズミ・ハルコは行方不明』を出しているんですけど、あの頃は急に仕事が忙しくなって、目が回るような日々で、あっという間に疲弊してしまって(笑)。仕事に追われて、日に日に自分が若者じゃなくなっていくのを実感してました。自分に残された若さをかき集めながら、書いてましたね。

― なるほど。仕事が順調になってきたり、忙しくなってくると人は若くなくなる。

山内 私の場合、20代後半で上京してからずっと暗黒時代なので、その時のストックに今、支えられているのかも。一人だけ変なタイミングで上京して、なかなか世に出られず悶々としていたから。で、やっと本が出せた頃には、ネット社会で出版不況という(笑)。雑誌育ちとしては、90年代に憧れに憧れていた世界だし、夢が叶ったわけですが、状況は全然違う。連載している雑誌が休刊したりとか、ザラにあるし。部数も、昔とはケタが違うだろうし。強みがあるとすれば、いい時代を知らないから、どんな酷い状況にも耐えられることかな(笑)。上を知らないから、ノーダメージなんですよね、ハハハ。“小説家になる”が夢だとすると、今の野望は“30年これで食っていく”です。やっぱりこれも世代的なものなのか、望みが地味(笑)。あとは、もっと本がイケてる存在になるよう、イメージアップしたいです。

― 最新作『メガネと放蕩娘』では地方商店街の活性化をテーマに展開されて。これは地方創生に関わるような仕事をしている人々にとっても、ものすごいリアリティがありますね。

山内 まちづくり系の文献資料もいろいろ読み、取材も重ねて、足かけ4年ほどかけて書きました。小説の中で、約10年もの時間が流れるような、長いスパンを描いたのも初めてだし、ここまでエンタメ小説に特化したのも初めてですね。デビュー作の題名がモロなんですけど、受け身で自分の地元を愚痴っているような、ここではないどこかを夢見てる若い女の子の話を書いてきたわけですけど、デビュー後6年の間に自分もすっかり歳を取り(笑)、地元との向き合い方、アプローチにも変化が出てきた感じです。

― 今作は、もはやルポかと思いました。エンターテイメントとして笑いつつ、小説の中で起こる一つ一つの出来事が、恐らく地方の仕事に関わる人なら誰もが経験し悩んでいるようなことで。

山内 取材協力をしていただいた市役所の方に読んでもらったら、「あまりにも自分が普段接している話すぎて、これが小説として面白いのか面白くないのか全くわからない」って言われました。けど、リアリティは保証してもらえた(笑)!

― 山内さんご自身は地元の富山へ戻ってもいいなと考えていたりもしますか?

山内 東京か富山か、二者択一では決められないですね。地元に根を張っている家族がいるからこそ、東京でふらふらしていられる。でも、そのうち介護とかで帰ることになるかもしれないし、自分の意志だけでは決められなくなってくる問題かも。上京したときとは違って、背負ってるものがいろいろあるので(笑)。現実的なところで、二拠点生活ができればいいなぁとか考えます。実家をどうリノベーションしようか妄想したりしてます。親には内緒で(笑)。

― 憧れてたものにたどり着いた先の景色がやっと見えてくる三十代後半、ですね。

山内 世に出られたのが遅い分、先延ばしにしていた課題が多くて。女性に生まれた重みが一気にのしかかってくるのもこの年齢だし。夢を追ってくすぶっていた暗黒時代がまぶしく思える。自分も変わったし、時代も変わったし、流行も変わった。だけど、90年代に自分にインストールされたものが強すぎて、いちいち対応するのが大変(笑)。自分が憧れていて、かつて大人気だったものに辿り着いたら、もう変わっていっている、と。

― 90年代の残像が強い(笑)。憧れてたものっていうのが常になくなっていくっていうのはこの世代にとっての共通項かもしれないですね。ミレニアルズの下からのすごい勢いを感じつつ、違うやり方を編み出していく、というような。

山内 ね。でもいい加減、90年代ゾンビの殻はかなぐり捨てて、何かこう、新しいプラットホームじゃないけど、新しい像を作らないといけないのかなーみたいなことは考えていますね。うちらは、まだまだ生きなきゃいけないから。


『メガネと放蕩娘』
山内マリコ
文藝春秋
発売中

山内マリコ
1980年、富山県生まれ。2008年に「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2012年に『ここは退屈迎えに来て』を刊行して作家デビューを果たす。主な著書に『アズミ・ハルコは行方不明』『さみしくなったら名前を呼んで』(いずれも幻冬舎)、『パリ行ったことないの』(フィガロブックス)、『かわいい結婚』(講談社)など。最新刊は、地方商店街の活性化をテーマにした『メガネと放蕩娘』(文芸春秋)。エッセイや映画レビューも手掛けている。
http://yamauchimariko.tumblr.com/



EmiriSuzuki

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