田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

田中が「2017年のロックでベスト」と語るファーザー・ジョン・ミスティ(Guy Lowndes)

2人の人気評論家による3万字超えロング対談「BEST OF THE YEAR 田中宗一郎と宇野維正がナビゲートする2017~2018年の洋楽カルチャー」。前編に引き続き、求められるプロデューサー像の変化や、カルヴィン・ハリスとベックの関係、エド・シーランとUKアンダーグラウンドの活況など、こちらの後編も話題は多岐に及んだ。また、まもなく来日公演が実現するファーザー・ジョン・ミスティとチャーリーXCXにまつわるくだりは、webのみのエクスクルーシブ(初出)となっている。

※この対談記事は昨年12月24日発売の「Rolling Stone JAPAN vol.01』に掲載されたものです。

テイラー・スウィフトの新作は、あまりにも自己言及的すぎて悩ましい。(田中)

RSのランキングに再び目を向けると、ロードが2位と大健闘しています。NMEだと彼女が1位でした。

宇野 最初のアルバムは大好きだったけど、今回のアルバムはそこまでハマれなかった。

Lorde
ロード『メロドラマ』

─向こうで評価されてるのはどういう文脈があるんですか?

田中 まず、2013年に彼女が「Royals」でデビューしたときは、2011年にカニエとジェイZがダブルネームで作った『ウォッチ・ザ・スローン』が定義した、いわゆるラグジュアリー・ラップに対するカウンターだったんです。“私たちはロイヤル(高貴)でいたいけど、ラグジュアリーである必要はない”っていう。それをニュージーランドの17歳の少女が歌って、一気にプロップスを得た大事件だった。でも、この4年の間に若いオーディエンスが求めるものがすっかり変わってしまった。ロードが今回の2作目を出す前にコーチェラ・フェスに出演したときは、なかなかに厳しいものがあって。ケンドリックの受け方もすごかったけど、フューチャーのライブにドレイクが登場したときなんて、黄色い歓声が本当にすごかった。ドレイクはほぼ歌わないけど、フィールドの何万人が1曲ほぼ丸々大合唱っていう。

─要するに、ロードはアウェイだったと。

田中 つまり、そんな白人の子たちがみんなラップやR&Bを聴いてる時代に、それこそアダムとイブの時代からずっとマイノリティであり続けてきた女の子たちに何を語りかければいいのか。それを引き続き彼女はやったんですね。先行シングルの「Green Light」って、たぶんエリック・ロメールの映画の引用だと思うんだけど、共依存的な関係にあったボーイフレンドとの関係を断ち切って、次に進むことについての曲なんですよ。それって自立という永遠のテーマでもあるし、トランプ政権誕生の後のサウンドトラックとしても聴くことが出来る。そう考えると、“ポップ・アイコンとしての私の評判”をモチーフにしたテイラー・スウィフトの新作よりも、地に足の着いた少女の立場から歌ったレコードの方が評価されるのは、当然だよね。



宇野 テイラーのアルバムは売れてるんでしょ?

─アルバム・チャートをしばらく独走してました。

田中 でも、評価は低い。実際、これまでのテイラーって常に前作よりいい作品を作ってきたんですよ。でも、初めて前作よりも劣る作品を作ってしまった。だから、RSがこれを7位に選んでいるのは、良くも悪くも“らしさ”が出てる。

─他媒体のベストでは、そんなに見かけなかったですからね。


レピュテーション』テイラー・スウィフト
パーフェクトな優等生であり続けたがゆえに、近年はバッシングに見舞われていたテイラー。SNS時代に歪曲されがちな“Reputation=評判”をテーマにした本作では、好戦的な構えでリベンジを遂行。ダークな雰囲気は昔と別物だが、セールス的には2017年最高の数字をマーク。

田中 『レッド』期からずっと彼女の大ファンを公言してきた自分としては本当に悩ましいんだけど。ここ2作ではアルバム毎に常に新しいサウンドとテーマを提示してきたのに、今回はインダストリアル寄りのサウンドも彼女にもあまりフィットしてないし、リリックもあまりにも自己言及的すぎる。



宇野 きっと、作らざるを得なかったんでしょうね。

田中 そこしかテーマがなかったんだと思う。もはや生身のテイラー=ポップアイコンとしてのテイラーだし。今回の彼女のアルバムのアートワークって、NYタイムズみたいな彼女を批判し続けてきた東海岸リベラルに対する当てつけだと思うんだけど。でも、同じく保守的な価値観をリプリゼントしてきた宿敵ケイティ・ペリーがいきなりグラミーでトランプ批判のパフォーマンスを始めて、思いきりすべったりしてるし。あれは見てられなかった。

宇野 もう選挙戦は終わったわけだから、今どうこう批判するよりも先のことを考えるべきであると。今さらトランプ批判をしても自己満足にしかならないっていうことですよね?

田中 そう。余計なトランプ批判はさらなる分断に火をくべるだけだって考え方もあるわけだしね。

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