デビューアルバムから11年、MGMT流「過去」との向き合い方

MGMTは昨年4月にアルバムを完成させていたが、コロムビアレコードは同作のリリースを翌年2月まで持ち越した。同レーベルからアルバムをもう一枚発表すれば、彼らは晴れてレコード契約という拘束から解放される。「自由の身になったら、屋根裏部屋で作った適当な音源をどんどんYouTubeにアップしてやるんだ」。ヴァンウィンガーデンがそう話す一方で、ゴールドワッサーはより大胆なアイデアについて語ってみせる。「アルバムを出す代わりに、どこかの家で部屋ごとに異なるサウンドスケープを堪能してもらう、アートインスタレーションみたいなのをやってみたいね。デヴィッド・バーンがひたすら実験的なことをやってた頃みたいにさ」

昨年、『オラキュラー・スペクタキュラー』の発売10周年を記念したデラックス盤のリリースと、同作を丸ごと再現するコンサートツアーの企画が持ち上がった。「僕は興味があったんだ」。ヴァンウィンガーデンはそう話す。「でもどういうわけかマネージャーが反対してさ」。対照的に、ゴールドワッサーはその企画が潰れて安心したという。「やらなくて本当によかったよ」。彼はそう話す。「成功した作品の発売10周年って、そんなに一大事なのかなって思うよ。10周年記念ツアーとかやる人もいるけど、僕はごめんだね」

現在彼らは、3月からスタートするアメリカツアーの準備に追われている。2013年のツアー序盤に、ブレイクのきっかけとなった「キッズ」がセットリストから外されたとき、ファンの多くはバンドが同曲に嫌気がさしたのだろうと考えた。「あの曲は当時のセットリストに馴染まなかったんだ」。ヴァンウィンガーデンはそう話す。「ショーでは9割以上の確率で“キッズ”を演ってる。一番有名な曲なんだから当然さ。僕だって自分の好きなバンドのライブに行く時、新しい曲なんてまったく期待しないからね」

初期の作品に対する周囲の過剰な期待は、前に進もうとするアーティストにとって足枷になる。「今でもメディアに登場するたびに、必ずファースト・アルバムとあの3曲について触れられるからね」。ヴァンウィンガーデンはそう話す。「馬鹿馬鹿しいとは思うけど、感謝してもいるんだ。話題になるのが過去の作品だとしても、僕らのことを今でも気にかけてくれているんだからさ。レコード会社から契約を切られて早々に消えていったバンドを、僕らはたくさん見てきたからね。実験的な作品を幾つも出してる僕らが、10年後もこうしてキャリアを続けられていること自体、十分感謝に値することなんだよ」

Translated by Masaaki Yoshida

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