混沌とするアメリカ:銃規制やBlack Lives Matter運動、若者活動家の善行とあるラッパーの悪行

アイデヘンによる馬鹿げた発言は予期されたものだった。3月24日、彼はまたパークランド事件の生存者や遺族に対し、「クラスメートや教師を殺害されたことがなければ、誰もお前の名前を知ることもないだろう」と発言した。一方マイクは、2016年の大統領選においてバーニー・サンダースの支援者のひとりだったが、殺傷能力のある武器の禁止に関してだけは両者の意見が食い違っていた。銃や銃文化に対する彼の言葉に疑問を持つ人々は、このビデオを観て自分たちの疑問が確信に変わった。マイクは、自分の子どもたちにNational Walkout Dayへ参加させないようにするため、「お前たちが学校から出て行くなら、この家から出て行け」と言ったことを誇らしげに語った。キラー・マイクはさらに、NRAの辛辣な広報担当者ダナ・ロウシュの言葉に賛同した。彼女は2018年2月に開催された保守政治活動会議(CPAC)で、メディアは銃による黒人の犠牲者に関心を寄せていないと批判し、NRAが、銃の暴力によって愛する家族を亡くした人々のための対話集会をシカゴのウエストサイドで予定しているかのような発言をした。白人にもっと銃を購入するよう促すために人種問題を利用する組織の正当性を、黒人の観客たちに囲まれたマイクが主張する姿は吐き気がする。彼はNRAが過去に、銃を隠さずに持ち歩くことを禁止したカリフォルニア州法を支持した事実を忘れているに違いない。同法は、1967年にブラックパンサー党のメンバーが武装して州都に現れた後、当時のロナルド・レーガン州知事が法案に署名した。さらに、学校の栄養指導を担当していたフィランド・キャスティール(当時32歳)が、ミネソタの警官により銃殺された事件をNRAがほぼ無視していることも、彼は忘れているだろう。キャスティールは、車を停車させた警官に対して車内に銃があることを冷静に伝えたところ、銃撃された。さらにNRAは、Stand Your Ground法を支持している。2012年にトレイボン・マーティンを殺害したジマーマンは、同法によって守られた。銃規制法の改正が、黒人社会の犯罪から利益を得ている組織(NRA)に打撃を与えそうな時、マイクは恐らく意図せずに、自分の名声を組織に貸すこととなったのだろう。

NRATVのビデオ番組は、今のムーヴメントが成し遂げようとしている何ものも阻むことができないだろう。銃規制の大規模改革は既に多くのアメリカ人に支持されてきたが、パークランドでの事件をきっかけに、さらに賛成票が増加した。2018年2月後半に行われたポリティコ/モーニング・コンサルトの世論調査によると、有権者の68%がより厳しい銃規制を支持している。中間選挙の年を迎えた上下院や各州議会の共和党議員ですら、プレッシャーを感じている。ローマ教皇フランシスコもまた、このムーヴメントに関する発言をしている。教皇は枝の主日に集まった信者たちへ向け、「親愛なる若者たちよ、心の中の声を上げよ!」と語りかけた。そして今、高校生たちのグループがゼロの状態から大規模なムーヴメントを起こしている。白人の特権を意識した活動で、若き有色人種の活動家たちも参加している。彼らは同様の活動を数多く続けてきたが、これまでは世間の注目を集めることもなく、一般に受け入れられることもなかった。銃の入手云々ではなく、銃による暴力を終わらせるために努力している若い黒人活動家たちの素晴らしい活動に対し、マイクは脚光を浴びせることもできたが、彼はNRAの視聴者の受けを狙って活動家たちを笑いものにした。正に言葉通り“役立たず”だ。

だから、マイクのように政治的発言をする黒人ヒップホップ・アーティストを見て失望した時に、私がどれだけ不安を感じていたのかわからない。マイクはNRAの主張を信じ込み、「ワカンダ(訳註:映画『ブラックパンサー』に登場する架空の国家)では、誰もが銃でも槍でも必要なものを持てる」などと声高に言ったりする。マイクは自分が、追放された人々に戦うための武器を与えるキルモンガー(訳註:『ブラックパンサー』の登場人物)だと思い込んでいるのだろう。彼自身は、自分が反対していた敵側へ回るとは思っていなかっただろう。銃を所持する有名なアフリカ系アメリカ人が、人種的なテロや無差別殺戮を行う国家から身を守るため、人々に武器を持つことを促している。我々は、銃規制を改革すべきか否かの議論に加わらねばならない。しかし、黒人の銃所有者たちがNRAの方針に関するメッセージを発する時、それは、革命を起こしかねないメッセージを敢えて一般に広めていることになる。

その後激しい非難を浴びたキラー・マイクは、翌25日の夜、ソーシャルネットワークを通じ、自らの過ちを認める長いビデオを公開した。ラン・ザ・ジュエルズのパートナーであるEl-Pはマイクを擁護したが、彼自身はデモ活動を公に支持し、アイデヘンのコメントには激しく反発している。しかし、マイクの謝罪には何となく違和感もあった。彼は、NRATVの番組内で活動に対する支援を馬鹿にしていたにもかかわらず、「俺は君たち若者の味方だ」と繰り返し強調した。彼は、「我々皆が賛同しかねる組織(NRA)とのインタヴューは、アフリカ系アメリカ人による銃の所有についての話をするだけだと思っていた」と主張している。しかし、実際その会話はどうなったか? マーティン・ルーサー・キング・Jr牧師の志を継ぎたい、と強調するマイクは、“常には意見が合わないかもしれない人々”とも腰を据えて話し合いたい、と述べている。

キング牧師を引き合いに出して、彼ならNRAにどう対応しただろうか、などと推定することは私にはできない。しかし牧師が3月24日に、ワシントンで演説した孫のヨランダ・リネーや、ロサンゼルスの若者たちと一緒にステージに立つ姿を想像した方がしっくり来る。公民権運動の伝説の人は、NRATVに出演して、暴力を終わらせるための非暴力の運動を誹謗中傷したりはしないだろう。誰もがキング牧師になれる訳ではない。しかし今起こっている#NeverAgainムーヴメントは、間違いなく彼を手本としている。マイクのような人たちが、今すぐそれを理解してくれることを願うのみだ。


Translation by Smokva Tokyo

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