レニー・クラヴィッツが30年のキャリアで初めて直面したスランプの恐怖

9月のリリースを決めた新作『Raise Vibration』では、いつも通り、クラヴィッツがほとんどの楽器を演奏している。(ストリングスとホーン以外の)唯一のコラボレーターは長年一緒にやっているギタリストのクレイグ・ロスだ。今作はこれまでのクラヴィッツ作品の中で多種多様な音楽要素が最も多く含まれた作品となっている。最初に生まれた曲「Low」は、スームズなファンク曲に発展した。完璧なホーンとストリング・アレンジで彩られたこの曲を、クラヴィッツ自身は「クインシー系の曲」と呼んでいる。また、タイトル・トラックはトリオで奏でるパワフルなロック曲で、「Here to Love」はストリング・セクションとクラヴィッツのピアノの弾き語りで奏でる極上バラッドだ。「Johnny Cash」は故ジョニー・キャッシュと遭遇した体験が元になっている曲で、クラヴィッツ曰く「サイケデリック・ファンク・ミーツ・カントリー」。

「この曲はジョニー・キャッシュが登場した俺の夢の話であり、何年か前に実際に起きた出来事でもある」とクラヴィッツ。「曲を聴いてくれれば分かるよ。歌詞を書いているとき、自分が何を書いているか、俺もよく分かっていなかった。でも書き終えたら、“ああ、そういうことだったんだな”と合点がいったよ。かなり深い曲だ」

クラヴィッツは新作のリリース前に同アルバムのワールド・ツアーを既に始めているが、実はもう1枚、同作とはまったく趣向の違うレコードも制作している。このレコードはファンク一色らしい。まだアルバム・タイトルすら決まっていないこの作品では、ジョージ・クリントン、故アラン・トゥーサン、元ジェームス・ブラウンとファンカデリックのホーン奏者フレッド・ウェイズリー、ジャズ・ギタリストのケニー・バレルらとのコラボレーションが実現している(このアルバムにはクラヴィッツが計画している映像作品が伴う可能性もある)。演技と言えば、娘ゾーイ・クラヴィッツが出演しているドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』の新シーズンで、ゾーイ演じるボニー・カールソンの父役で出演する噂があるが、本人はそれはないと言う。「ないよ、新シーズンに出演することはない」と笑いながら続けた。「可笑しいのは、娘が出演者の候補になる前、第一シーズンでは俺が旦那の一人として候補にあがっていただろう。でもメリル・ストリープが出演して、最近メリルと娘が会いに来てくれたんだけど、かなり面白かったよ」と教えてくれた。

これからしばらくクラヴィッツは音楽に全神経を傾けるつもりだと言う。特にインスピレーションを再び感じられるようになった今だからこそ、なおさらだと。「まるで『Let Love Rule』のときのようだ」と、人間だったら2019年に30歳になる自らのデビュー曲を持ち出した。「あれは自分を再起動した感じだった。今の俺は俺としてもう一度機能している。とうの昔に20歳だった俺が、あのときのような感覚を取り戻したってことは天からの贈り物だ。自分を、自分の中にいるアーティストを信じるってことを学んだよ。自分が持っているものを信じることをね」

Translated by Miki Nakayama

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE