アメリカン・ドリームを手中にした台湾系米国人シェフの「マッシュアップ術」

彼の「半自伝的内容」とされるその脚本には、アジア系民族が数多く居住するニューヨークのフラッシングに住む台湾人の少年が、名ポイントガードになるまでの過程が描かれているという。そこにはバスケットボールに対する、彼の並々ならない情熱が反映されている。「ジョニー・デーモン、ダミアン・ウィルキンス、シェーン・ラーキン、皆俺と同じ学校に通ってたんだ」。故郷のフロリダ州オーランドから出たヒーローたちの名を、彼は次々と挙げてみせる。「やりたいことを見つけた思春期の少年が、周囲の反対にも構わず夢を追いかける。シンプルなシナリオだけど、俺がコミュニティで実際に経験したことが反映されていて、俺のバックグラウンドが伝わる作品になってる」。取材が行われた時点でも脚本はまだ未完成であり、配給先についてもまだ交渉中だという。また彼は自らの視点で物語を描くべく、自身で監督も務めるつもりだという。

彼は他にも複数のプロジェクトを抱えている。現在執筆中の3作目となる自伝では、彼自身も経験した社会にはびこる暴力がテーマとなっている。それでもカリフォルニア市民らしく、リラックスする時間は必ず設けるようにしているという。マリファナを合法化した同州の寛容さを歓迎し、彼は昔ながらのやり方で大っぴらに煙を吸い込んでいる(「毎日吸ってるよ、長年愛用してるパイプでね。昨夜洗ったばかりさ」)。ヒップホップマニアでもある彼は、フードリッチ・パブロ・フアンとトラブルを最近のお気に入りに挙げる一方で、黄金期のレゲエをこよなく好む(執筆中はずっと、アレサ・アンド・ドナの『アップタウン・トップ・ランキング』をリピートしているという)。

ヒップホップ・カルチャーとの接点となったレストラン経営も継続中だ。9年前、ニューヨークに構えるバオハウス(BaoHaus)での台湾のストリートフードをアレンジしたメニューが話題を呼び、彼はセレブの仲間入りを果たした。またこの秋には、Whole Foodsの進化版と言われる高級食材に特化したErewhon Marketにインスパイアされた、カフェテリア形式の新店舗をロサンゼルス市内に出す予定だという。「アジア系Erewhonとか、そういうポジションを狙ってるわけじゃない」。彼はそう話す。「俺はただ、アメリカで一番の台湾料理のレストランをやりたいだけだよ」

Translated by Masaaki Yoshida

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