MV視聴回数1億回突破、関係者たちが明かすチャイルディッシュ・ガンビーノの素顔

最新MV「This is America」は公開1週間を経て視聴回数1億回を記録している(Photo by Tinseltown / Shutterstock.com)

ラップ界のアウトサイダーから主役へと転じたチャイルディッシュ・ガンビーノ。最新曲「This is America」で世界中を席巻するまでの歩みを、コラボレーターや関係者の話とともに振り返る。

“ライム好きの負け犬でも、ヒップホップの世界でやっていけるかな? ショーツなんか履いてジョークを言う、俺みたいなやつでも”

ドナルド・グローヴァーによるラッププロジェクト、チャイルディッシュ・ガンビーノが2011年に発表したデビュー・アルバム『キャンプ』には、こういった問いかけが数多く見られる。不信感と毒に満ちた同作は、チャイルディッシュ・ガンビーノをラップにおけるメインストリームから遠く隔てていた。“ライブはしない、スポンサーがいないから / 俺はスフィアン(・スティーブンス)のライブ会場にいる唯一の黒人”。しかしそこには、本当は受け入れられたいという本音が見え隠れしていた。



5月5日にチャイルディッシュ・ガンビーノが発表した新曲「This is America」に、当時の彼の面影はほとんど見られない。かつてヒップホップの世界における狭義なマッチョイズムを批判した彼は、ミーゴスのクエヴォ、21サヴェージ、ヤング・サグ、ブロックボーイ・JBといった、これまで所縁のなかった面子をゲストに迎えた同曲で、重みのある短いラインから成るヴァースやアドリブの掛け声など、現在の主流ともいえるスタイルを披露している。『キャンプ』で分断された黒人のコミュニティに対する不満を歌った彼はこの曲で、今日における黒人の団結を生み出したのは繰り返される人種差別と暴力だと主張する。



2011年当時と現在では、彼のスタンスはまるで異なっているように思える。キャリア開始当初、ヒップホップのメインストリームとはまるで無縁だったチャイルディッシュ・ガンビーノは、ルールも指標も存在しない道を歩まねばならなかった。それ以来、彼はシーンにおいて唯一無二の存在であり続けている。曲がりくねった轍なき道を歩む彼にとっては、「This is America」も一つの通過点に過ぎないのだろう。

「あえて名前は出さないけど、(キャリア初期は)多くの業界人がドナルドのことを無視してた」。チャイルディッシュ・ガンビーノのコラボレーターであるプロダクション・デュオ、クリスチャン・リッチの片割れのケヒンデ・ハッサンはそう話す。「ヒップホップの世界は非情だよ。貧しい人間のための音楽っていう先入観があって、(『コミ・カレ!!』で俳優として成功していた)彼のような存在がやるべきじゃないなんて言うヤツらばかりなんだ。その順序は逆じゃなきゃいけないってわけさ。それが今じゃ世界中のセレブたちが彼に注目してるんだから、まったく痛快だよ」

ヒップホップのシーンからのサポートを得られなかったチャイルディッシュ・ガンビーノは(ラップ専門のラジオ局では2017年まで彼の曲がかかることは滅多になかった)、他に活路を見出さなくてはならなかった。今年1月まで、彼はインディバンドを多数抱えるグラスノートと契約していた。彼のキャリアを支え続けてきたスウェーデン人作曲家のルドウィグ・ゴランソン(『コミ・カレ!!』にも参加)にとっても、ヒップホップは決して得意とする分野ではなかったため、2人は独自のアプローチを試みることになった。

チャイルディッシュ・ガンビーノのスタイリッシュな特異性は、デビュー当時から際立っていた。「抽象的な『キャンプ』では、リスナーを思いのままに翻弄してみせた」。アップル・ミュージックのBeats 1 Radioでクリエイティブ・ディレクターを務めるゼイン・ロウはそう話している。「キャリア初期からそれだけのことをやってのけるアーティストというのは、その意外性が魅力として理解されるまでに時間を要するものさ。その人物が博識家なら尚のことだよ」

Translated by Masaaki Yoshida

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