伝記映画から分かる、2パックが永遠のカリスマとして語り継がれる理由

『オール・アイズ・オン・ミー』より (c)2017 Morgan Creek Productions, Inc.

ヒップホップ史上、最高のカリスマの一人である2パック。昨年公開されるや否や世界で話題騒然となった、2パックの本格的な伝記映画『オール・アイズ・オン・ミー』がBlu-ray/DVDで登場。本作の魅力をライターの長谷川町蔵が解説する。

1973年の8月11日にニューヨークのサウス・ブロンクスでヒップホップが誕生してからすでに45年近くが経つ(なんとこのジャンルには具体的な誕生日がある。詳しくは拙著「文化系のためのヒップホップ入門」をどうぞ)。決して短くないその歴史において、<最高の天才>をひとり挙げろと言われたら意見が割れるだろう。でも<最高のカリスマ>をひとり挙げろと言われたら、ひとりのラッパーの名が挙がるはず。2パックことトゥパック・アマル・シャクールである。この男、活動時期が1991年から1996年までと、とても短い。理由はラスベガスでドライブ中に、横付けされた車からの銃弾によってこの世を去ってしまったからだ。享年25歳。

その衝撃的な死はこれまでも、好敵手ノトーリアス・B.I.G.の生涯を追った『ノトーリアス・B.I.G.』(2009年)やヒップホップ・グループ、N.W.A.の興亡を描いた『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)でも描かれてきたが、ここにきて遂に本格的な伝記映画『オール・アイズ・オン・ミー』が製作された。

MV監督として知られるベニー・ブームがメガホンを取った本作がはたして成功するかどうかは、主演俳優にかかっていたといっていい。『ノトーリアス・B.I.G.』で2パック役だったアンソニー・マッキー(現在は『アベンジャーズ』のファルコン役で人気)や『ストレイト・アウタ・コンプトン』のマーク・ローズも頑張ってはいたけど、メインを張るからには特徴がありすぎるあの顔に似ていないと話にならないからだ。しかしその問題は見事クリアされた。4000人の中から主演に抜擢されたディミトリーアス・シップ・ジュニアの面構えを見てほしい。そっくり。それだけでなく声やムーヴまで霊魂が憑依しているかのようだから驚く。


(c)2017 Morgan Creek Productions, Inc.

2パックのことを詳しく知らない人が本作を観たら、彼が胎児の時代から映画が始まることに驚くかもしれない。実はこれが2パックの生涯を語るうえでは大変重要なのだ。というのも、彼の母アフェニ・シャクールは映画『デトロイト』で描かれた1967年のデトロイト暴動に触発されて結成された急進的な黒人系政治組織ブラックパンサー党の一員であり、1970年にニューヨーク同時多発テロを計画した容疑で逮捕された21人の党員(通称パンサー21)の一人だからだ。身重のアフィニは裁判で無罪を勝ち取ると、出産した息子に18世紀にスペインの植民地支配に立ち向かったペルーの反乱軍指導者トゥパク・アマル2世にちなんだ名前をつけた。ちなみにアフィニを演じているのは、マーベル産の大ヒット作『ブラックパンサー』のオコエ役で知られるダナイ・グリラ。つくづく“ブラックパンサー”に縁がある女である。


(c)2017 Morgan Creek Productions, Inc.

ニューヨークで生まれた2パックが、最終的に西海岸のオークランドにたどり着いたのも、この街がブラックパンサー党の発祥の地だったから。つまり2パックとは反体制アフリカン・アメリカンの申し子のような男なのである。このため彼は少年時代からFBIにマークされており、些細な罪で何度も逮捕されている。映画では、彼のそんな特殊な生い立ちもしっかり描かれている。

だがラッパーとしての2パックは決して母からの影響だけで出来上がっていたわけではない。確かに彼は反体制の闘士だったが、同じくらいストリートのサグ(不良)の立場から犯罪やセックス、やるせない日常を語るストーリーテラーだった。それだけではない。高校時代はシェイクスピアに打ち込んだ演劇オタクでもあったのだ(このときの親友がウィル・スミス夫人でもある女優のジェダ・ピンケット)。

そしてその三つの要素のすべてを彼はヒップホップに注ぎ込んだ。だから2パックのリリックには、精神的充足と肉体的な快楽、平和と暴力、正義と犯罪、女性賛美と女性蔑視、リアリティと脚色といった相反するものが平気で共存している。それは彼の人生も同様だった。


(c)2017 Morgan Creek Productions, Inc.

黒人の地位向上を訴えながらギャングと親交を深め、演劇経験を活かして俳優業に進出したはずが『ジュース』(1992年)で演じたキャラクターに同化して自らもギャングのように振る舞うようになった。そして結果的にそれが彼の命を縮めることになる。

自業自得。そう切り捨てるのはたやすい。しかし人間という生き物は本来、矛盾に満ちた生き物ではないだろうか。だとすれば2パックほど人間臭かった男はいない。それが最も端的に描写されているのが『オール・アイズ・オン・ミー』のあるシーン。2パックは音楽業界を代表する大物プロデューサー、クインシー・ジョーンズの悪口を散々言いふらしながら、直後に彼の娘キダーダを口説いて恋人にしてしまうのだ。この破天荒さこそが、2パックである。ちなみにクインシーは2パックについてこう語っている。

「25歳で死んでいたら、マーティン・ルーサー・キングは単なる牧師だったろう。マルコムXは単なるハスラー、私なら単なるトランペット奏者。でも2パックは25歳であれだけのことを成し遂げた」



『オール・アイズ・オン・ミー』
監督:ベニー・ブーム 脚本:ジェレミー・ハフト/エディ・ゴンザレス/スティーヴン・バゲトゥーリアン
発売元:松竹 販売元:松竹



Tシャツ・ステッカー付きBOX(初回限定生産)

2018年6月6日(水)発売
Blu-ray 6800円(税抜)
DVD版 5900円(税抜)
発売・販売:松竹


通常版
2018年6月6日(水)発売
Blu-ray 4700円(税抜)
DVD版 3800円(税抜)
発売・販売:松竹

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