『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』アメリカでコケてしまった5つの仮説

2. スター・ウォーズ疲れ

2015年に『フォースの覚醒』が公開されるまでは、10年以上もスター・ウォーズの新作とはご無沙汰だった(おっと失礼、2008年の『クローン・ウォーズ』がありましたな。でも誰も覚えてないのでは?)。それがいきなり30か月の間に4作品が公開された(2019年12月には『スター・ウォーズ エピソード9』が公開。さらに、2020年にはボバ・フェットのスピンオフも公開予定)。これまでにないほどの『スター・ウォーズ』豊作期を迎え、『ハン・ソロ』もその中のひとつに過ぎないのでは、と疑問に思うのもうなずける。

もっとも、ルーカスが生んだ映画シリーズは、これまでカルチャーシーンに欠かせない存在だった。だが過去10年を振り返れば、ビデオゲームから本、テレビシリーズに至るまでそこら中がスター・ウォーズであふれている。初期3部作はもちろん、その続編もケーブルテレビで何度となく再放送され、かつては三連休の週末の贅沢だった『スター・ウォーズ』全編視聴も、『ファントム・メナース』がTNTで平日午後に放映される今、それほど珍しいことではなくなった。

昔は、『スター・ウォーズ』の新作は一大事件だった。だが今では一連のルーティンでしかなく、観客が食傷気味だとしても仕方がない。とはいえ、マーベルはこの問題にうまく対処し、アベンジャーズとサノスの最終決戦へ向けて緊張感を高め、みごと4月の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』へとつなげている。とすれば、『ハン・ソロ』はスター・ウォーズ・シリーズのなかでも重要度が低い作品だった。この点を考慮すれば、メモリアル・デイの興行成績が1億300万ドルというのはまずまずの数字といえる。スター・ウォーズ作品が飽和状態であっても、新作がこれだけ稼げるということなのだから。

3.  観客が、オールデン・エアエンライクを若きハン・ソロだとは認めなかった

誰もが知る有名な役柄に抜擢されるのは、名誉でもあるが、呪いでもある。世界中で愛されるキャラクターの適任者として選ばれた一方、地球の人口にも匹敵する大勢のファンの理不尽な期待に応えなくてはならないからだ。彼らは抑揚のつけ方から身のこなし、セリフの言い回しまで、事細かにチェックする。ときには役者が期待を上回るパフォーマンスをすることもある。例えば、ヒース・レジャーはジョーカーという人物像の常識を大きく変えた。その一方で、『スーパーマン リターンズ』のブランドン・ラウスのように、クリストファー・リーブが演じた元祖スーパーマンの出来損ないと見られて終わる場合もある。

オールデン・エアエンライクは素晴らしい若手俳優だ。フランシス・フォード・コッポラからウディ・アレン、ウォーレン・ビーティまでさまざまな監督の作品に出演。古き良きハリウッドの魅力に、抗いがたい甘さとユーモアを兼ね備えている。2016年にはコーエン兄弟によるハリウッド時代ものコメディ『ヘイル、シーザー!』に出演し、生真面目な古代ギリシャの将軍を演じるのに四苦八苦する間の抜けた役者を見事に演じ切り、劇場を魅了した。それからほどなくして彼が若きハン・ソロ役に抜擢されたとのニュースが発表され、スターダムは約束されたかのように見えた。ところが一転、エアエンライクはハリソン・フォードの足元にも及ばないというスター・ウォーズ・ファンの不平不満に直面。ハリソン・フォードが生涯ハン・ソロ役から距離を置こうと努めていたことを考えると、なんとも皮肉だ。

いずれにせよ、エアエンライクはにっちもさっちもいかない、自己弁護の立場に立たされた。演技指導コーチをつけたという噂も、何の役に立たなかった。出演オファーを引き受けることで、エアエンライクはなぜ自分が抜擢されたかを正当化しなくてはならなくなった(『エスクワイア』誌とのインタビューで、自分のハン・ソロ役に対する観客の反応について質問されると、「オファーにイエスと答えたのも自分。役に対してどう演技するかも自分の責任。それがすべてだ」と答えた)。若きハン・ソロの演技にハリソン・フォードがお墨付きを出したにも関わらず、『ハン・ソロ』の興行不振は主演俳優のせいだ、という批評は後を絶たない。この批判は不当だろう――彼はいかにも宇宙船のパイロットらしい風貌なのだから。だが、ハリウッドは観客のウケがすべて。その点エアレンライクは、「やつはミレニアム・ファルコン号の操縦席に座るタマじゃない」という前評判を覆すには至らなかった。

Translated by Akiko Kato

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