写真家が語る、ブルース・スプリングスティーンとの日々:80〜90年代の秘蔵プライベートフォト

80年代・90年代のブルース・スプリングスティーンのプレイベート・ポートレイト(Photo by David Rose)

現在、米ロサンゼルスにて開催されているフォトグラファー、デヴィッド・ローズの写真展「Unseen Springsteen」。この個展から、80年代・90年代のブルース・スプリングスティーンのプレイベート・ポートレイトを抜粋し紹介する。ファンダー越しに見た“ボス”の人生をローリングストーン誌に語ってくれた。

それは1992年に始まった。デヴィッド・ローズはブルース・スプリングスティーン自身が選んだフォトグラファーで、二人はその後10年間を共にした。米ロック界のスーパースターにとって、この10年間は過渡期であり、実験の時代であり、再結成の時期であった。初期のアルバムを数枚リリース後、E・ストリート・バンド抜きでツアーを行った頃で、プライベートではロサンゼルスとニュージャージーの自宅で家族を作っていた。当時のローズはツアー中も、スタジオでも、スプリングスティーンの自宅でも、最もリラックスしているスプリングスティーンを撮影している。

この頃に撮りためた写真の中から厳選した写真が、ローズの初の写真展「Unseen Springsteen: Intimate Portraits」として、ロサンゼルスのミュージックヘッド・ギャラリーで現在展示されている。この個展は6月2日まで開催され、スプリングスティーンの新アナログ盤ボックスセット『アルバム・コレクションVol. 2: 1987–1996』の発売と時期を同じにしている。ちなみに、このボックスセットにもローズの写真が10枚以上使用されているという。

現在は米アリゾナ州ビスビーに住んでいるローズが、初めてスプリングスティーンと会ったのはフォトグラファーになりたての頃で、1987年のアルバム『トンネル・オブ・ラヴ』のジャケット写真の撮影でフォトグラファーのアニー・リーボヴィッツのアシスタントをしていたときのことだった。ローズはこれまでヴァニティ・フェア誌、ヴォーグ誌、プレイボーイ誌などの撮影を行ってきたが、スプリングスティーンの撮影を行った思い出に特別な思いを持っていると言う。最初の撮影が行われたのがニュージャージー州アズベリーパークにある有名なストーン・ポニーだった。

「このプロジェクトを始めるにあたって、彼の撮影を始めてから25年経過したってことに気付き、アーカイヴを掘り起こして、コンタクトシートを見てみたんだ」とローズがローリングストーン誌に語り始めた。「非常に近い距離でロックンロールの歴史の一部分を撮影できたことは光栄の極みだよ」と。

ジャージー・ボーイズ
1992年、スプリングスティーン撮影の初回、デヴィッド・ローズはニュージャージー州アズベリーパークのストーン・ポニーに呼び出された。そこでは「Southside Johnny」のビデオ撮影が行われていた。この写真でブルースは長年一緒にやっているEストリート・バンドと(ドラマ「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」の俳優の)スティーヴン・ヴァン・ザントと一緒にステージに立っている。


Photo by David Rose

「これは撮影の途中で撮られた写真で、彼らの絆の強さがよく表れている」とローズ。「彼らは一緒に過ごす時間を本当に楽しんでいた。ジョン・ボン・ジョヴィが彼らのジョークを聞こうと身を乗り出しているだろう。これがブルースを撮った最初だ。彼からの『アズベリーパークに来てくれ』って呼び出しには本当に興奮したよ。ストーン・ポニーは今ではクラシック・ロックの会場として有名だよね。ブルースは若い頃にこのジャージー海岸のバーで何度もプレイしていたから、あの会場でプレイすることは彼にとって自分のルーツを再発見することでもあり、小さなクラブで演奏する生のエネルギーを再確認することでもあったと推測する。大きなスタジアムでプレイするのとはまったく違うから。ブルースがストーン・ポニーに来ていることが伝わると、あっという間に会場は満員になったよ」

アット・ザ・キーズ
「Southside Johnny」のビデオ撮影の休憩中にローズはスプリングスティーンの最初のポートレイトを撮影。1992年。


Photo by David Rose

「僕はブルースの対面に座っていて、彼にポートレイトを撮影したいと伝えた。彼は『どうしてそんなことをするんだ?』という反応だった。通りの向こう側に無人のホテルがあって、作業員が板で囲っている最中でね。そのホテルの一角に古いピアノがあった。ブルースはピアノの前に座ってくれたから、撮影を始めた。これが一緒に仕事をした最初の撮影だったね。僕が『君は写真を撮られるのが嫌いだろう?』と彼に言うと、彼は『ああ、好きじゃない。曲作りのほうが圧倒的に好きだよ』と答えたよ。だから『だったら今、曲を作れば? そしたら撮影されていることを忘れるだろう?』と言ってみた。そしたら無表情な顔で僕を見て『曲のテーマは何?』と聞いてきた。そんな彼を撮影しながら、『ジャージー海岸にある板で囲われたホテルについて。ブルース・スプリングスティーンらしくない曲』と返したら、彼は声を出して笑って、ピアノの鍵盤を叩き出し、めちゃくちゃな音で演奏し始めたよ」

Translated by Miki Nakayama

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