職場としてのチャーチ、苗床としてのチャーチ

プロテスタントにはバブテストほかメソジスト、アドベンチストなど諸派あって、正直よく分かってない。これはハーレムにあるペンテコスタ派の教会、The Greater Refuge Templeにて(Photo by ROOTSY / Gen Karaki)

ブラック・ミュージックの最前線にミュージシャンを送り出す、アメリカ教会音楽のビジネスとノウハウについて。

※この記事は3月24日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.02』内、「フロム・ジェントラル・パーク」に掲載されたものです。

駆け出しミュージシャンの収入源として、前回はGBの話をしました。原稿を送った後で片手落ちに気づいたんだけど、もうひとつ日本にはないメジャーな収入源として、チャーチ、すなわち教会の話をしないとだわ、と思った次第。

音大生どうしでチャーチの仕事が決まった、というと、ワオおめでとう!って感じで、けっこうな羨望を集める。なんでかって、何よりそこらのギグよりギャラがいいからだ。ピンキリとはいえ一回の礼拝で250ドルから400ドル、 場所によってはもっともらえるところもある。週一だけど、これはでかい。

殊にメガチャーチと呼ばれる大きな教会だとミュージシャンが社員扱いになる。定期収入に社会保障がついちゃったりして、もはや安泰ムード。なかでもミュージックディレクターと呼ばれるバンマスは、そこらのビジネスマンと比べても引けを取らないレベルの収入を手にしている。そんな人気の職場なので、 私はチャーチの演奏にありつけたことはないです。無力なり。

ところでチャーチでのバンド演奏というと、誰でもゴスペルを思い浮かべると思うしそれで正解なんだけど、アメリカに来てまず分かったのが、どこの教会でもゴスペルが聴けるわけではないということ。むしろ限られてるっていうか。

基本、第一にプロテスタントの 、第二に黒人信者の占める割合の高い、付け加えるなら経営に熱心な教会でないと、いわゆるゴスペルは演奏されない。カソリックは伝統的な聖歌だし、プロテスタントでも白人の多い教会ではクリスチャンミュージックと呼ばれる、まったく別種の音楽が始まって「あれー?」ってことになる(ちなみにカントリーと近接したサウンド)。

そして経営の話だが、見学に行くうち分かってきたのは、教会って当然ながら営利団体でもあって、ゴスペルは信仰行為であると同時に、集客・集金装置としての側面があるということだ。

礼拝に行くとまずヒム(Hymn=賛美歌)が何曲か演奏され、フロアが暖まったところでパスター(牧師さん。カソリックの聖職者はファザー)のスピーチや信者の出し物が小一時間。ようやくゴスペルが始まると、バラードから「シャウト」と呼ばれるアッパーな曲調に突入、さらに参拝者をアゲアゲにする。

アガったところで何があるかというと、これがオファリングといって、集金なのだった。この献金があるおかげで教会が運営されるわけで、ゴスペルミュージシャンはみんなの信仰心が高まりお金をたくさん払いたくなる演奏をすることが、一つのミッションとなる。

信者数の少ない零細教会ではバンドスタイルのゴスペルなんて維持できないし、逆に拡大路線の教会ではゴスペルに力を入れて、より腕利きのミュージシャンをリクルーティングしたりする。ミュージシャンはいまどきの曲調を取り入れたり盛り上げるテクニックを駆使したりして人気を取り、参拝者が増えるよう貢献する、という構造だ。

ミュージシャンにとってのチャーチには、そういうシビアな職場としての側面がある一方で、シェッド(Shed=小屋、ここでは養成所みたいな意味)、いわば苗床としての機能もまた、強くあると思う。

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