7億ユーザーを誇る中国版Spotifyが米国で株式公開準備

中国国内の3大デジタル・サービスであるQQ Music、Kuwo、KuGouを運営しているTencent Music Entertainment (Photo by Chesnot/Getty Images)

Spotifyの1.7億ユーザーを大きく上回る、7億ユーザーを誇る中国の音楽ストリーミングのトップ企業であるTencent Music Entertainment。スウェーデンの本家の株式公開に続いて、ウォール・ストリートへ進出しようとしている。

Spotifyが米国証券市場にデビューしてから3か月後、Tencent Music Entertainment(以下、TME)もまた、米国での株式公開を目指して準備を進めているという。TMEは中国における音楽ストリーミングのトップ企業で、同国内の3大デジタル・サービスであるQQ Music、Kuwo、KuGouを運営している。

TMEの筆頭株主である5000億ドル規模の中国のインターネット企業Tencentは2018年7月8日、株主へ宛てたレターの中で、同社が展開する音楽ビジネスのスピンオフを発表した。「米国内の公認の株式市場において、売出・公募を実施する」という。TMEのスピンオフのスケジュール、値幅、株数は未だ決定していないものの、アナリストの間では時価総額約300億ドル(約3兆3000億円)が予想されている。2018年4月にニューヨーク証券取引所へ上場したSpotifyの296億ドル(約3兆2700億円)と同等の数字である。Spotifyの場合、公開直後の株価は1株あたり165.90ドルだった。

現時点で公開されている情報から、TMEの米国市場への進出が、同社や世界の音楽ストリーミング市場に与える影響を推し量ることは難しい。しかし、投資家と音楽業界の経営者のどちらも、TMEとSpotifyが同等の市場価値を持つ点ではなく、両社が直接的に投資し合っている点に注目すべきだ。2017年12月、TencentとSpotifyは株式交換を実施した。結果、TencentがSpotifyの9.1%を保有し(内4分の1はTMEが直接保有する)、SpotifyがTMEの非支配持分の9%を持つこととなった。

今のところ、具体的なビジネスや製品・サービスの提携はみられないが、両社による株式の持ち合いは、デジタル音楽分野における将来的な提携を物語る。さらに、中国の音楽業界もまた、猛烈な勢いで拡大している。国際レコード・ビデオ製作者連盟によると、中国の音楽市場規模は2014年の世界第19位から2017年は10位に上がったという。米国は長期に渡りナンバー1に君臨し、日本、ドイツが続く。

さらに広い視野で見ると、Tencentが間もなくスタートする音楽ビジネスは、ホットな話題といえる。TencentのビジネスはSpotifyとは異なり、実際に利益を生むからだ。

Spotifyは、1億7000万のユーザーが売上に貢献しているものの、レーベル、アーティスト、その他権利関係者への莫大な支払いにより、同社は毎年赤字になっている。一方のTMEは、中国当局への申告情報によると、2016年の利益は9100万ドル(約100億円)、2017年は2億8300万ドル(約312億5000万円)だった。TMEの成功の裏にあるものは何だろうか? TMEの親会社で4800億ドル(約53兆円)の市場価値を持つTencentは、ゲーミング・プラットフォーム、ソーシャル・ネットワーク、さらに大きな人気を誇るメッセージ・アプリのWeChatなど、音楽以外にも非常に広範囲なインターネット・ビジネスを展開している。Tencentが膨大な人口を抱える中国に広く浸透しているおかげで、TMEはレーベルや権利者とより有利な条件で取り引きできているものと思われる。さらに、Spotifyの約3倍という7億ユーザーを抱えるTMEは、コンサート・チケットや楽曲の限定ダウンロードなど、ストリーミング以外のサービスも提供している。

中国のTMEは、グローバル展開を視野に入れたテック・ジャイアントの後ろ盾による総合エンターテインメント事業で、上手に利益を上げてきた。米国での株式公開が順調に進めば、同社の得意とするビジネス戦略が、音楽ストリーミング業界に新たな風を吹き込むこととなるだろう。既にいくつかの企業が後に続こうとしている。Apple Musicのバンドルなど、どうだろうか?


Translated by Smokva Tokyo

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