魑魅魍魎のジョニー・デップ裁判、本人が内情を明かした密着ルポ

米ローリングストーン誌の記者は3日間に渡り、ジョニー・デップを密着した(Matt Mahurin for Rolling Stone)

数百万ドルの訴訟、アルコールと大麻による朦朧とした意識、大失敗の結婚、手放せない贅沢なライフスタイル。全世界が注目するジョニー・デップの裁判の内情を、本人が語り、関係者が語った。米ローリングストーン誌の記者が、英国ロンドンのデップの自宅で行なった、数日間にわたる密着ルポの完全翻訳を掲載する。ジョニー・デップの今がここにあるーーー。

ジョニー・デップは、アメリカにはいない。しかし、英国ロンドンのハイゲート地区のビショップウッドロード16にある10,500平方フィート(約795平方メートル)の豪邸ではデップの存在を至るところで感じる。

デップ専属シェフのラッセルが北京ダックを作っている姿にデップの存在を感じる。客室のバスルームのシンクの横に置かれた葉巻サイズのジョイントにデップの存在を感じる。ゴブレットに無造作に注がれるワインを保管する満杯のワインセラーにデップの存在を感じる。そして、階段の横にある未完成の絵画にデップを感じる。この絵には黒く焼け焦げている家、子供時代のジョニー、彼の母ベティ・スーの面影を持つ怒れる女性が描かれている。

そして、実物の彼がここにやってきた。彼は居間にいて、登場の歌をささやくように歌っている。「僕の愛しき人、僕の愛しき人、クレメンタイン。君はもういない、永遠に去ってしまった。僕の愛しき人、クレメンタイン」と。

デップはときどき参加しているバンド、ハリウッド・ヴァンパイアーズの写真撮影から戻ってきた。バンドメイトはアリス・クーパーとジョー・ペリー。デップの後ろから弁護士のアダム・ワルドマンが歩いてくる。デップは40年代のギャングのような出で立ちだ。真っ黒な髪を後ろになでつけ、ピンストライプ柄、サスペンダー、スパッツ(男性のフォーマル用のフットウェア)を身につけている。彼の顔はむくんでいるが、彼の茶色の眼はいつものようにまっすぐ前を見据えている。35年に渡るキャリアの中で、その眼は素晴らしい瞬間と危険な瞬間を交互に見てきた。現在のデップの色気と気品を感じさせる眼差しは、晩年のマーロン・ブランドのそれを思い起こさせる。これは偶然ではない。デップは敬愛する伝説たちを真似ながら人生を築き上げてきたのだから。ブランドのように島を買い、ハンター・S・トンプソンのようにクアールード(鎮静剤・催眠剤)のエキスパートになった。

「やあ、ジョニーだ。初めまして」

彼は右手を出してきた。彼の指のタトゥーは前妻アンバー・ハードを意味した「slim」から「scum」(※クズの意味)に書き換えられている。

「君は真実を聞きたくてここに来たわけだよね?」と、ラッセルが渡すヴィンテージ赤ワインの入ったグラスを受け取りながらデップが聞いて、「裏切りだらけだよ」と続けた。

私たちはパッタイ、北京ダック、ジンジャーブレッド、各種ベリーの食事が用意されたダイニングルームに移動した。デップはテーブルの上座に腰を下ろし、巻き煙草用の紙を持ち、刻みたばこと大麻に手を伸ばし、私に「いいか?」と聞いた。もちろん、いいと答えたが、彼は一瞬動きをとめて「まずはワインを飲もう」と言った。

このあと、これが72時間続くことになる。

彼からのメッセージの意味がはっきりするまで1ヶ月かかり、その間に交わされたメールの数は約200通。「ロンドンに来てくれ」の言葉と共に、彼は空っぽになった自分の銀行口座について、心のうちを打ち明けたいと伝えてきた。

デップが主演したすべての映画の収益は36億ドル(約3,950億円)で、彼が得た収益総額は推定で6億5千万ドル(約713億円)だ。それがほとんど消えてしまったのである。デップは、長年仕事をしてきたマネージャーのジョエル・マンデルとその兄弟のロバート・マンデルが経営するザ・マネージメント・グループ(TMG)を告訴する予定だ。罪状は、職務怠慢、受託者義務違反、詐欺。また、この訴訟では、デップ自身に一切通知されずに姉クリスティへ渡された700万ドル(約7億7千万円)とデップのアシスタントのネイサン・ホームスへの75万ドル(約8200万円)、さらにデップがアメリカ国税庁に支払った560万ドル(約6億1500万円)以上の延滞金についても明らかにすると言う(デップの怒りの矛先は彼の金庫番だったジョエルに向けられている)。追加の罪状として、TMGはデップの財産を勝手に同社への投資し、利益なく返金したという利益相反もある。この訴訟でTGMへ請求される賠償金額は2500万ドル(約27億円)。これはTMGが仕事の対価という名目で違法に受け取った何千万ドルと裁判所がデップに損害を与えたと認める追加の罪状に対する損害賠償だ。

マンデル兄弟はすべての不正行為を断固として否定しており、デップがTMGと口頭で交わした契約を破ったとして、デップを逆告訴する予定だ。この訴訟によってデップが1ヶ月に200万ドル(約2億1900万円)を使う浪費依存症(※買い物依存症とも言う)が明らかになる。彼は、例えば「ワインは買った直後に飲んでしまっては投資にならない」というような上手い言い訳を言うらしい。TMGの逆告訴状によると、デップはTMGに対して「継続的に悪意のある嘘の申し立てを巧みにでっち上げた」ということだ。その理由は、デップがTMGに対して4200万ドル(約4億6000万円)の未払い貸付金があるため、TMGがデップの財産の一部を差し押さえる申し立てを行ったからのようだ。

Translated by Miki Nakayama

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