魑魅魍魎のジョニー・デップ裁判、本人が内情を明かした密着ルポ

デップにとって、怒りに任せて爆発したあとに、相手に謝罪のテキストメッセージやメールを送るのはよくあることだった。アモーの売却をデップは決めかねていた。その間に敷地の価格は1300万ドルから2700万ドルへと高騰し、これがデップが売却を急がない理由となった。購入希望者に家を見せる約束も反故にした。同じ頃、シンガポール旅行中に同行した関係者の話によると、デップは10万8000ドルのスーツを旅行先で購入したらしい。

2016年1月には、マンデルがクリスティに30日分の流動性資産しか残っていないと告げた。そして、究極の危機的状況に陥っていたため、マンデルはデップのスタッフに室内用鉢植え植物に金を使うのをやめるように指示した。これに苛ついたデップは財務報告書を確認したいと言い出したのである。マンデル兄弟は喜んでそれに応えた。この時点でもデップはジョエル・マンデルを信頼していると明言していたし、2月下旬にマンデル本人に送ったテキストメッセージでは彼への深い愛情を示していた。しかし、その後、突然連絡が途絶えたのである。そして10日後にデップはTMGをクビにし、2016年3月に裁判戦争が始まった。


2010年、ベニスにあるデップのヨット。

ロンドンでの会話で名前を出すことは控えていた元妻ハードとの2016年の醜い離婚劇は、デップのこの問題と密接に関連している。デップがハードと出会う前のデップの女性の扱い方は紳士的として有名だった。事実、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの最新作の撮影直線にペネロペ・クルスが妊娠したとき、彼女は降板することを考えた。しかし、それは馬鹿げていると彼女にアドバイスしたのがデップだった。「彼は毎日私を守ってくれたの。そして撮影が終わる頃、私は妊娠6ヶ月になっていたわ。あのことは一生忘れない」とクルスが言っている。

デップとハードが出会ったのは『ラム・ダイアリー』の撮影現場だった。この作品はハンター・S・トンプソンの奇妙で不遇な若手時代を描写した映画だ。クリスティは当然この二人の結婚に反対。これが弟との関係を緊張させた。そして、デップにとって世間との唯一のつながりが消えかけていた。TMGの訴状によると、デップは所有しているバハマの島で行われたハードとの結婚式で100万ドル費やしたと言う。

2016年5月20日、デップの母親が死去した。その翌夜、ハードは二人の共通の友人のアーティスト、イオ・ティレット・ライトに電話して、911に緊急通報してほしいと頼んだと報じられている。ライトがのちに女性向けメディアRefinery29に「電話の向こうで(デップが)『お前の髪を引っ張ってやろうか?』というのが聞こえた」と書いている。

ライトはすぐに警察に電話し、顔に浮かび上がった青あざの写真を撮った。同メディアにライトは「プライベートジェットで移動中のキックから暴力の報告書が始まり、身体を押され、パンチされたりするようになり、最終的に12月になると、彼女が言うところの徹底的な暴行となり、目覚めた彼女の枕は血で真っ赤になっていた。これを知っているのは、彼らの家に行って、血染めの枕をこの目で見たから。傷ついた唇も見たし、床に落ちていた彼女の髪の毛の束も見た」とも書いている。

その2日後、つまりデップの母親の葬儀の前日に、ハードは離婚の裁判を起こした。その夏、デップがキャビネットを粉砕し、特大サイズのグラスで赤ワインをガブ飲みする動画がTMZにリークしていた。ハードが撮影していると気付いたデップは、彼女の電話を取り上げて粉々に壊したのだった。8月に離婚が成立して、二人は連名で声明を出した。その一部に「二人の関係は情熱的すぎて、ときには危険なものだったが、常に愛で結ばれていた。どちらも金銭的利益のために相手を誹謗中傷したことは一度もない。肉体的、感情的に危害を与える意図も一切なかった」と書いてあった。

ハードが受け取った慰謝料は700万ドルと言われていて、両者とも機密保持契約書に署名した。私の到着前に、デップがこの契約書のためにハードのことは一切話すことができないと、ワルドマンから聞いていた。

その夜のロンドンはハードの名前が大々的に報道されていた。#MeToo運動が始まったことを受けて、J.K.ローリングが『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』でジョニー・デップを降板させなかった理由を説明する声明を出したためだ。「グリンデルバルド役にジョニー・デップが決まったとき、彼ならこの役にぴったりだと思った」とローリング。「しかし、彼のカメオ出演を撮影していた頃、この映画製作の関係者も私も非常に心配になるような記事が出始めた……。しかし、彼ら二人のプライバシーを守る契約が締結され、両者ともそれぞれの人生を歩みたいと言っているのだから、それは尊重すべきことだ。そういった理解に基づいて、映画製作者と私はオリジナルの計画を変えなかったことに満足しているし、ジョニーにシリーズ作品の主要キャラクターの一人を演じてもらうことに純粋な喜びを感じている」。

その夜遅く、デップは私生活と財産の両方を同時に失ったことで陥った深刻な鬱症状について教えてくれた。「落ちるところまで落ちたよ」と、デップが感情のない声で言った。「その次の段階は『目を開けたままでどこかに到着して、目を閉じてその場所を去る』だった。毎日感じるあの苦痛に耐えられなかったんだ」。


2015年、デップと当時妻のアンバー・ハード。

デップはハリウッド・ヴァンパイアーズのツアーを続け、彼のヒーローのトンプソンよろしく、古い手動式タイプライターで回想録を書く決心をした。

「朝にウォッカをガブ飲みして、涙で文字が見えなくなるまで書き続けた」と彼。白いシャツの袖で涙を拭い、問わず語りを続けた。「こんな状態に陥った原因を探ろうとし続けた。俺はみんな親切にしようと努力したし、みんなを助けようとしたし、みんなに正直だった」と、ここで一瞬間をおいて「真実が俺にとって一番大事なことだ。それなのに、こんなことが起きてしまったわけだ」と述べた。

Translated by Miki Nakayama

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