プリンスは望んでいるのか?遺産管理人たちによる権利ビジネスの行方

2009年3月28日、ロサンゼルスで演奏するプリンス (Photo by John Shearer/WireImage)

プリンス・エステートは現在、ライセンス契約、音源等のリリース、ホテル事業までもを模索中で、これらすべては生前のプリンスが望んだと思われることだという。プリンスは本当にそれを望んでいるのか?残された遺族やエステートの目指す方向は正しいのか?

2016年4月のある月曜日、タイカ・ネルソンに兄プリンスから電話がきた。タイカはプリンスの晩年の4〜5年間、彼の仕事を手伝っており、プリンスは実現したいプロジェクトのアイデアを定期的にタイカに報告するのが常となっていた。その日、プリンスは家族の系譜に関する情報を探していた。「母方よりも父方の親族の情報を求めていたわ。それが彼の本の始まりだった」と、ネルソンが教えてくれた。

3日後、プリンスは遺体で発見された。ミネソタにある自身の屋敷内のエレベーターの中で。死因はオピオイドの過剰摂取。その中には、当局が“著しく高濃度”と呼んだ合成オピオイドのフェンタニルも含有されていた。こうして著者本人が他界してしまったが、この本は今後出版されることになりそうだ。ランダムハウス傘下のSpiegel & Grau社がプリンスの死後の回想録の出版を準備していて、この秋に出版される可能性がある。報道によると、プリンスは50ページ分をすでに執筆していて、彼の手書きのエッセイに写真とプリンスゆかりの思い出の品々を加えて一冊の書籍にするようだ。

プリンスの死後2年間は、未発表曲のリリース、商品の発売、今後のプロジェクトという点でほとんど動きがなかった。ミネソタ州カーバー郡の裁判官は、プリンスの遺産の法的相続人が最終的に決定するまで、ミネアポリスにある銀行ブレーマー・トラストにプリンスの遺産を監視し、管理することを任命した。遺書の類いは一切見つかっていないため、彼のエステートには政府に数百万ドルの税金を支払う義務が生じている一方で、プリンスの親族だの、プリンスの隠し子だのと、怪しげな主張する自称“遺産相続人”が裁判所に洪水のごとく押し寄せているのだ。しかし、近年のさまざまな技術発展のおかげで、プリンス商品の収益化とマーケティングは加速度を増している。2017年、元レディー・ガガのマネージャーで現Spotifyのクリエーター・サービス部門トップのトロイ・カーターが、プリンス・エステートのエンターテインメント・アドバイザーに任命された。そのお返しに、カーターは、元ワーナー・ブラザースのA&R重役で、プリンスの晩年2〜3年間を担当したマイケル・ハウを雇用し、まだ日の目を見ていないプリンス遺産を発掘し始めたのである。5月になって、ミネソタ州の裁判所がプリンスの遺産相続人を、彼の兄弟姉妹、片親違いの兄弟姉妹の合計6人とする決定を下し、彼らに遺産管理への大きな発言権を与えた。

この動きが、プリンスの家族が正式に遺産管理を行う決定が下される前に決められた複数の取り決めと相まって、今後のプリンス商品の大氾濫への道筋を作ることとなった。まずはこの秋、ファンはプリンスの未発表音源を聞くことになる。そして、新たにライセンスされたプリンスの衣料品やグッズ、プリンスの楽曲を演奏するオーケストラの生演奏の公演チケットが販売される。さらに、映画やテレビ番組でプリンスの楽曲を耳にする機会が増えるはずだ。加えて、まだ準備段階とは言え、プリンスのテーマホテル建設の話すら持ち上がっているのだ。

6月に、ソニーの子会社レガシー・レコーディングスがプリンスの過去のカタログの権利を取得したことと、1990年代半ばにワーナー・ブラザースを離れた後に発売したアルバムからリリースすることを発表した。レガシーがリリースするタイトには、『Emancipation』、『Rave Un2 the Joy Fantastic』、『Musicology』が含まれる。そして2021年の新年から、ソニーはプリンスのワーナー時代のアルバム、つまり1978年の『Prince』から1992年の『Love Symbol』までをリリースし始める予定だ。「アルバム未収録曲」と「ライブ録音」も新しいリリース計画に上がっている。

「一生懸命走り回って、すべての安全を確認して、決めた範囲の外に出ないことを確実にするの」と、プリンスの妹タイカが言う。プリンスの死後に彼の所有物をすべてリストアップする作業を始めた頃を思い起こしながら、「でも、腕まくりをして、もうやるしかないって感じ」と語ってくれた。

Translated by Miki Nakayama

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE