メタリカのラーズが語る「俺が自分でも怖いと感じる唯一の点は、恐れない能力があること」の意味

―さっきヒーローの一人としてお父さんをあげましたが、彼から学んだ人生教訓はどんなものですか?

生きる上での原則をいくつかと、基準の外枠で浮かぶこと、だな。父の本業はテニス界で、50年代、60年代のテニス界は非常に保守的だった。でも父は長髪と長い髭という姿でテニスにある種のエキセントリックさを持ち込んだために目立っていた。これはほとんど哲学的なアプローチだったよ。

―音楽活動と父親業の両立を可能にした方法は何ですか?

俺たちは限界とルールをいくつか決めた。このバンドの素晴らしい点の一つが、メンバー全員が同じ時期に親になって、父親をやるという方向へと向かった。それも積極的にね。バンドの半分が父親で、残りが独身という状態じゃなかった。だから、ある時点で全員の意識がメタリカから家族へと移って、家族、子ども、配偶者を最優先することになった。でも、そう決断して、マネージャーに電話して、俺たちは音楽活動をしばらく休むとか、ツアーをするなら、間に必ず1週間の休暇を入れて自宅に戻るとか、そういうことを伝えられるようになるまで2〜3年かかったよ。俺たちの社内スケジュール表には、“誰々の春休み”、“誰々のスキー休暇”、“誰々が休暇で不在”というふうになっていて、それと同じようにメタリカのスケジュールも入っているって状態さ。

―ヒュッゲ以外にくつろぐためにすることは何ですか?

くつろぐ? それってどういう意味だ?(笑) たぶん、大好きなのは映画だな。音楽、アート、文学よりも映画の方をフォローしているもの。映画にどっぷり浸っているし、映画の本も読む。映画も見る。映画館にも行く。自宅でも映画を見る。オンデマンドでも映画を見る。映画会社からスクリーナーも送られてくる。映画製作者をフォローしているし、彼らの記事も読む。俺にとって映画は最も生命力のあるクリエイティヴ・プロセスなんだ。面白いことを実現しようとする未開の領域や人々のための場所が映画なんだよ。

―最近のお気に入りの映画は何ですか?

映画にとってベストな時期が10月と11月で、俺のような映画オタクにとっては最高の映画がたくさん公開される時期でもある。『ラ・ラ・ランド』は先週見たけど、これは『セッション』のデイミアン・チャゼル監督の次回作品で、12月公開予定だ。この作品に驚かされる人がたくさん出てくると思うよ。最高のミュージカル映画だ。2週間ほど前に見たドイツ映画が『ありがとう、トニ・エルドマン』で、これはカンヌで大ヒットした作品。俺は本当に驚いた。かなり独特な映画で、ドイツ映画とコメディを組み合わせた、相当レアなジャンルだ(笑)。あと、ブラッド・ピットの制作会社プランBが製作した『ムーンライト』も見た。これはマイアミで育ったアフリカ系アメリカ人の男が子どもの頃にさまざまなことと折り合いをつける内容の映画だ。子ども時代、高校時代、大人としての生活の三段階で構成されている。最高に素晴らしい作品だ。また、ケン・ローチ監督作品『わたしは、ダニエル・ブレイク』も見た。これも本当に素晴らしい作品で、カンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞したよ。イギリスという国と、イギリスの社会制度についての内容で、かなり重い内容の作品だ。

―ではあなたを一番感動させる音楽は何ですか?

自分の人生経験とシンクロするくらい自分に深く入っている音楽だね。ボブ・マーリーのアルバム『バビロン・バイ・バス』は俺の人生に常に大きな影響力を与えるレコードだと思う。あのレコードが発売された1978年に聞き始めたんだけど、収録曲のいくつかはデンマークのロスキルド・フェスティバルで録音されたものなんだ。このレコードは俺が常に立ち返る作品の一枚だね。それ以外だと、『カインド・オブ・ブルー』かな。聴きながら、腰を落ち着かせてジャズ、(ジョン・)コルトレーン、(チャーリー・)パーカー、デクスター・ゴードンなんかの話をついついしてしまう作品だ。普通にも、逆回転でも、上下逆さまでも聞くことのできるレコードが一枚あるとしたら、それはこの『カインド・オブ・ブルー』だね。このレコードは最初に聞いたときと同じ感動を毎回与えてくれる。それと同じ感覚を覚えるのが(ディープ・パープルの)『ライヴ・イン・ジャパン/Made in Japan』だ。1973年に初めて聴いたけど、それ以来、同じマジックを感じ続けている。それに(ブラック・サバスの)『マスター・オブ・リアリティ』を聞くと、なぜか13歳の頃の自分を思い出す。俺の部屋で仲間と一緒に黒いアフガンハッシュを初めて吸ったときを思い出すのさ(笑)。あとは、インド音楽ラーガを聴くと必ず感動してしまう……それ以外にもときどき引っ張り出して聞く作品がいくつかあって、例えばグレン・グールドがクラシック音楽をピアノで奏でる作品とかだね。

Translated by Miki Nakayama

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