ケンドリック・ラマー、5年前の「約束」を果たしたフジロック帰還

7月28日(土)、フジロック2日目のグリーンステージに出演したケンドリック・ラマー(Photo by Christopher Parsons for Top Dawg Entertainment)

2013年、ケンドリック・ラマーが初来日にして初めてフジロックに出演したとき、トリ前を務めたホワイト・ステージは過去に見たことがないくらい閑散としていた。彼の名声を決定づけた傑作『グッド・キッド、マッド・シティー』のリリース直後とはいえ、日本に限らずアメリカ以外での知名度はまだまだ発展途上。その上、10年振りのフジロック出演となったビョークがちょうど同じ時間帯にグリーンステージを満杯にしていたのだから、今思えば当時のケンドリックが苦戦を強いられたのも無理はない。だが、彼はそのパフォーマンスの最後に、そこに集まった数少ないオーディエンスに向けて、確かにこう語りかけた。「信じていてくれ、俺はまたここに戻ってくる」

それから5年。彼を取り巻く状況は激変した。『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』と『ダム』での世界的な成功。もはや揺るぎないものとなった「世界最高のラッパー」という肩書き。今や、地球の隅々にまで彼の来訪を待ち望むファンが数多くいることだろう。そんな状況にもかかわらず、ケンドリック・ラマーは再びこの島国に戻ってきてくれた。あの日彼の言った言葉は、5年の時を経てようやく現実のものになったのだ。

あのときの何百倍、いや何千倍だろうか。夕方から降り始めた雨は勢いを増す一方にも関わらず、グリーン・ステージにはヒップホップの救世主が降臨する時を待ちわびる人がひしめき合っている。開演前のSEはケンドリック・ラマーの仲間、スクールボーイ・Qやジェイ・ロック、YGといったラッパーたちの楽曲だ。雨が嘘のように止んだ瞬間、ついに開演の時がやってきた。

まず、会場後方のスクリーンに映し出されたのは、往年のカンフー映画を模した映像。ケンドリック扮するカンフー・ケニーは、師匠と思しき人物に「お前はもっと強くなれる」と告げられ、「ブラック・タートル」という異名を名乗り始める。そして映し出されるタイトル――「The Damn Legend Of Kung Fu Kenny」。カンフー・ケニーことケンドリック・ラマーの登場だ。一曲目は最新作『ダム』から、「DNA」。凄まじいビートを叩き出す腕利きのバンド隊だが、彼らは目立たない両サイドに配置されていて、ステージ上はほぼケンドリック・ラマーの独壇場。初っ端から目まぐるしくフロウを変えるラップが場の空気を完全に支配していく。

続く「エレメント」では、自身がポップ音楽として史上初めて受賞したピューリッツァー賞にかけて、スクリーンに「Pulitzer Kenny」の文字が。ステージには刀を持って舞踏する忍者が現れ、カンフーVSニンジャの対決が繰り広げられた。「YAH」のイントロに乗せて「WELCOME TO THE DAMN.TOUR」の文字が映し出された後、始まったのは『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』収録の「キング・クンタ」だ。スクリーンには、赤く染まった映画『キング・コング(1933年版)』の映像。強靭なファンク・ビートに、オーディエンスが激しく波打つように揺れる。

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