フジロック現地レポ「拡張されたヴァンパイア・ウィークエンドの今」

あとこの日は、セットリストの良さも特筆しておくべきだろう。祈るような声で「ステップ」をしっとり歌い上げ、「アンビリーヴァーズ」でギアを切り替えると、2大ファストチューン「カズンズ」「A-Punk」を続ける反則技を披露し。そこへおまけに「ウォーシップ・ユー」まで畳み掛ける。そこから、「アメリカはあなたを愛していない だから僕もあなたを愛することはできない」と、2018年現在も有効なメッセージが歌われる「ヤ・ヘイ」では、ビッグな曲調に合わせてシンガロングが巻き起こり、会場のボルテージは最高潮となった。

さらにここで、ハイム三姉妹のフロント、ダニエル・ハイムが飛び入り参加し、シン・リジィ「The Boys Are Back in Town」をドライブ感たっぷりにカバー。味のあるラフな演奏からは、セッションそのものを楽しんでいる空気が伝わってきた。そして最後は、やさしい歌声である種の決意を促す「オブヴィアス・バイシクル」から、ダスティ・スプリングフィールド「Son of a Preacher Man」へと移ろうソウルフルな展開で、情感たっぷりに幕を閉じた。


Photo by Shuya Nakano

実質的にダブル・ヘッドライナーだったと思えるほど、素晴らしく見応えのあるライブだったのは間違いない。グッドメロディに満ちたレパートリーを浴びながら、経年劣化に耐えうるソングライティングの強度も再認識させられた。インディ・ロック括りで選ぶなら、VWは今も世界最高のバンドだと思う。ただ、苗場の盛り上がりに水を差すようで恐縮だが、伝統と革新を背負ったUSインディ・ロックの旗手が、このまま懐メロ化していきそうな気配をうっすら感じたのも正直なところだ。

2018年のフジロックは、MGMT、ダーティー・プロジェクターズ、そしてヴァンパイア・ウィークエンドと、ブルックリンで黄金時代を築いたトップバンドが集結したのもトピックだった。初期の頃から追ってきたファンの一人として、まだまだ彼らにはノスタルジーよりもサプライズを求めていたい。だから、VWが新曲を一つも披露しなかったことに対しては、複雑な気持ちも少なからずある。

とはいえ、後から振り返ってみたときに、今回のライブが新作の伏線となっていた可能性も十分あるだろう。今はとにかく、エズラが約束したニューアルバムが届けられる日を楽しみにしたい。



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