トレント・レズナーが断言「リサーチはマーケティングの仕事、作り手は気にしない方がいい」

ー先ほど『Not the Actual Events』で依存症に苛まれすべてを焼き尽くすという妄想を描いたと話していましたが、今でもそのように感じることはありますか?

ないね。20年前の俺は、手にした名声に戸惑ってばかりだった。酒やドラッグは一時的に気を紛らわしてくれたけど、当然ながら長くは続かなかった。当時は酒屋の側を車で通るたびに、そのまま店に突っ込んじまって、1週間くらい姿を消さなきゃいけなくなるなんていう妄想に囚われてた。それが俺のDNAの中に潜んでいる傾向だとは思いたくないね。たとえそれが事実だとしても、そいつをわざわざ呼び起こすような真似はしない。あのアルバムのセッションでは、自分の中に潜むそういう危険な部分をあえて意識したんだよ。レコーディングに数カ月費やしたことを考えれば、一時的な妄想とは呼べないかもしれないがね。(しばらくの間沈黙)

依存症に悩まされるのはもうごめんだよ。できることなら、そうやって無駄にした10年間を取り戻したい。もしメリットがあったとすれば、依存症を克服しようとする過程で苦痛を伴いながら、ひたすら自分を見つめ直したことだ。ああいう機会がなければできなかったことだからね。来る日も来る日もセラピーに通い続けるなんて、進んでやろうとは絶対にしないだろうからさ。でもあの経験は、俺に新たな引き出しを与えてくれた。あの日々があったからこそ、俺は自分のことをもっと理解できるようになった。自分の深い部分を見つめながらアルバムを作るという作業には、それと同じ効果があるんだよ。

ー作品に限らず、最近のあなたは過去にインスピレーションを求めているように思えます。その理由は何だと思いますか?

自分が何者で、この世界のどこに居場所を見出すべきか、最近はそういうことをよく考えるんだ。それは必ずしも俺自身のことではなくて、俗にアーティストと呼ばれる存在を指してる。最近はアーティストの浮世離れが加速しているように思うんだ。そういうことを考えていると、ついノスタルジックな思いに耽ってしまうんだけど、その状態を心地よく感じていることに自分でも驚いたよ。数年前にターンテーブルを買ってさ。レコードを手に取ったときの感覚や、電話が鳴るたびにそこまで歩いてって針を上げなきゃいけない手間を愛おしく感じるんだよ。最近は『トワイライト・ゾーン』をよく観てるんだ。懐かしいっていう感覚を欲してるのかもしれない。

過去を美化するなんて、昔の自分じゃ絶対に考えられなかった。でも今はそういう自分を受け入れようとしている。古いものの中から現在に通じる何かを見出そうとすることは、アプローチとして有効だと思うんだよ。

ーその影響はどういった形で作品に現れているのでしょう?

以前はエレキギターを使わないっていうルールを設けていたんだ。過去にやったことだし、時代遅れに思えたからさ。でも『Not The Actual Events』でエレキギターを使ってみて、すごくエキサイティングに思えた。俺はシーンの動向を意識したりするタイプじゃないけど、最近はまるでリアルじゃないヒップホップや、ロクでもないポップスばかりが巷に溢れているから、アグレッシヴなロックというものをすごく新鮮に感じたんだよ。

ーあなたは過去のインタビューで、ロックンロールは人の気分を害すべきものだと発言しています。

そうだな……俺にとってのロックンロールは、ルールを犯し、反旗を翻し、生々しいやり方で何かを表現するためのものだ。怒りが不可欠な要素だとは思わない。俺はそこに宿る誠実さと信念に魅力を感じているんだ。


1994年、ナイン・インチ・ネイルズのロンドン公演にて(Photo by Rolling Stone)

Translated by Masaaki Yoshida

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