トレント・レズナーが断言「リサーチはマーケティングの仕事、作り手は気にしない方がいい」

ーステージではどのようにそのスタンスを表現していますか?

ライブに対する俺の基本スタンスはこうだ。「オーディエンスが人生の数時間を費やす俺たちのショーは、圧倒的にリアルで忘れられない体験でなければならない」。去年のツアーのときにまず思い浮かべたのは、200台のスクリーンとド派手なレーザーやライトを完備した、コーチェラのサハラ・テントだった。ロジャー・ウォーターズの前回のツアーで観た、金に糸目をつけない最高峰のクオリティのヴィジュアルに度肝を抜かれたからかもしれない。でも最近フェスティバルのライブストリーミングを観てると、誰もが巨大なスクリーンをバックに演奏してる。それを観て俺は決めたんだ、俺たちのライブにスクリーンは必要ないってね。そんなもんにはションベンのシミがついたシートでも被せときゃいいんだ。スモークに包まれて淡々と演奏するっていうのは、今じゃ逆に新鮮さ。レトロっていう見方もあるだろうけどね。

ーレトロと言えば、あなたはNINのコンサートのチケット販売をプレイガイドに限定するという、インターネット普及前のやり方を実践しましたよね。4時間も待たされたと文句を口にするファンも見られましたが、あの戦略について今はどう感じていますか?

今になって思えば、配慮が足りなかったことは否めないね。どれだけの数のプレイガイドが用意されるのか、俺は把握してなかった。誰か他の人間が確認してるだろうと思ってたからね。あのやり方に問題点があって、それに不満を感じていた人々がいたことは事実だけど、いい思い出になったっていう声もあったよ。

ーアナログレコードへの思い入れが再燃していると話していましたが、一方であなたはApple Musicの運営に携わっています。ストリーミングについては現在どうお考えですか?

あらゆる音楽に瞬時にアクセスできるっていうのは素晴らしいことだ。一方で、好きな音楽を好きなだけ聞けるっていう手軽さが生む弊害もあると思う。俺が子どものときにあらゆる音楽に接することができていたら、俺の趣味はまったく違ってたはずさ。実際には俺の知ってる音楽は限られていて、だからこそそれを繰り返し聴いた。買ったアルバムが気に入らなかったとしても、選択肢が少ないから結局何度も聴くことになる。俺が15歳のときにザ・クラッシュの『サンディニスタ!』が出たんだけど、もし今のような状況だったらあれを200回も聴いたりはしなかっただろう。少ない小遣いをはたいて買ったからこそ思い入れがあったし、繰り返し聴いて多くのことを学んだ。あのアルバムの魅力を理解するまでには、ずいぶん時間がかかったよ。

Translated by Masaaki Yoshida

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