渡辺志保×DJ YANATAKE「日本のヒップホップにも恩恵、変容するストリーミング・サービス事情」

サマーソニックで来日するチャンス・ザ・ラッパー(Photo by Zbigniew Bzdak/Chicago Tribune/TNS via Getty Images)

毎回、ヒップホップにまつわる特定のトピックを選んで、じっくり深堀して伝えていこうという 「INSIDE OUT catch up!」は、DJ/ラジオ・ディレクターのDJ YANATAKEと音楽ライターの渡辺志保がblock.fmで手がける人気ヒップホップ専門番組「INSIDE OUT」の中のコーナーのスピリットを組んだ連載コラム。今回は、カニエ・ウェストの話題から……。

※この記事は6月25日発売の「Rolling Stone JAPAN vol.03』に掲載されたものです。

DJ YANATAKE:最近、話題を振りまいているといえば、やっぱりカニエ・ウェストですかね。

渡辺志保:カニエは一昨年、ツアーの途中で精神的な問題を抱えて入院したこともあって、TwitterやInstagramといったソーシャル・メディアから距離を置いていた。それが、今年になってから久しぶりにTwitterを更新したんです。最初は、哲学的なことを呟いていた。それが、途中でトランプを支持すると言って、いわゆるMAGAハット(=トランプ政権のスローガンだった<Make America Great Again>が書かれた帽子)をかぶってフリースタイルをする動画をポストしたり、保守派で知られる黒人女性コメンテーターのキャンディス・オーウェンスを擁護する発言をしたりするようになっていった。同時に、我々リスナーも「様子がおかしいぞ」と騒がしくなっていくわけですけど、最終的にアメリカで問題になったのは、<奴隷制は選択だった>という発言。400年続いた奴隷制は、アフリカン・アメリカンの人生にとっての選択だった。じゃないと、400年も続かなかったんじゃないか、と。有無を言わさずアフリカから連れてこられて奴隷として働かされていたという事実があるにもかかわらず、です。それで、より敵を作ってしまった感じがある。

DJ YANATAKE:カニエ擁護派の人もいるけどね。でも、カニエに対して批判的な人が目立っているという印象?

渡辺志保:うん。私もカニエのことは大好きですけど、それでもちょっと戸惑うくらい、彼の言動には疑問を感じてしまいました。アーティストとしてのカニエ・ウェスト、そして、一人の男性としてのカニエ・ウェストのバランスをとることが難しくなったのかなと感じてしまう。今回、みんなを愛そう、ということをしきりに言っていたカニエだけど、それを性善説だけで受け入れることができないというか…。いつもお騒がせなカニエだけど、今回の振れ幅はちょっと危険だなと感じたくらいです。

DJ YANATAKE:俺は、どっち側の視点に立ってもしっくり来ない違和感もある。志保みたいな意見も多数派なんだけど、その反対の意見(=カニエを擁護する意見)を言うと、すぐ叩かれちゃうっていう風潮もあるよね? 実際にチャンス・ザ・ラッパーもTwitterでそういった発言をして、結果、叩かれることになってしまったし。そういうのも気持ち悪いなって思う。別に、いち個人として共和党を支持してもいいじゃんと思うし、そこは自由じゃん。トランプを批判しないとヒップホップ的じゃないっていう風潮も違和感を感じる。すごく安っぽい言い方になるけど、(カニエは)常に人をびっくりさせる、驚かせるというマーケティング手法を用いてきた。そして、ニューアルバムが出るタイミングで、こうした騒動があった。それが行き過ぎてしまった結果が今なのかな、とも思う。しかも、この一連の騒動を含めてプロモーションなんだという可能性も多いにあるし。でも、行くところまで行ってるし、見ていて辛いところがある。

渡辺志保:カニエの近くにいる人は、本当に彼のことを心配したり気にかけてるような感じが伝わりますけどね。

DJ YANATAKE:6月1日にアルバムが出る予定だけど、これだけ逆風が吹いていても、曲がめちゃくちゃかっこよかったら、それはアリだよね。いずれにせよ、ここまでの状況の中、アルバムを出すというケースは初めてだと思うので、いろいろ引っくるめて反応が楽しみかな。

渡辺志保:うん、巻き返してほしいです。



カニエ・ウェスト『Ye』
ワイオミング州の山奥にこもって制作を続けていた新作が、彼の告知通り6月1日に発表された。アルバム・リリースの前日にはワイオミングにラッパー仲間やクリス・ロックやセス・ローゲンといった俳優陣、さらには熱心なカニエ・ファンら大勢を招待しキャンプファィヤーを楽しむがごとく、異例のリスニング・パーティを行った。計7曲入り、全尺30分にも満たない内容だが、実験的でありつつも懐古的なサウンド・プロダクションは2018年のカニエ・ウェストといった印象。彼が患っている双極性障害や、ドラッグ中毒、そして妻への愛情などを歌った歌詞は、非常に正直で彼の現状をありのままに映し出しているという印象を与える一方で、散漫かつこれまでのカニエのリリックと比較しても少しパワーが弱いと感じざるを得ない。ただ、本作はリリースされるとすぐに、Apple MusicとSpotifyのチャート上位7位を独占し、さらにApple Musicのアルバム・チャートにおいては83カ国において1位を獲得、アルバム発売後3日間のストリーミング再生回数は1億回を超えるなど、依然として強い人気を示して見せた。

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