映画『寝ても覚めても』監督とtofubeatsが語る「最高の恋愛小説」映画化への挑戦

──事前に何か、リクエストのようなものありましたか?

濱口:映画にとって川が重要なモチーフになっているのですが、「川が彼らを観ている」そういう曲にして欲しいという、メチャクチャふんわりとしたイメージだけ伝えました。

tofubeats:大阪の人がイメージする川というのは、例えば「悲しい色やね」みたいなものだと思うんです(笑)。原作も、最後のページまで読んですぐ「悲しい色やね」をかけたらバッチリはまったんですよね。

濱口:あははは! 今度やってみよう。

tofubeats:そのあと、実際に川へ行ってみたり、ブルーバックスの「川はどうしてできるのか」という本を買ってみたりして。そうこうしているうちに、浮かんできたアイデアをまとめたのがあの曲なんです。曲を作る前に、ここまで色んな資料をあたって歌詞の内容を考えたことは、今までなかったですね。曲の中に入れたい要素がたくさんあったので、それを理屈っぽくなくどう言葉にしていくかはかなり考えました。

──歌詞の中の、「水」が自然界で循環していくことを、誰かに対する「思い」が巡り巡っていくことの比喩にしているのがとても印象的でした。

tofubeats:まさにそれがテーマです。メタファーとして川はよく出来たコンテンツであることを改めて知りましたね(笑)。歌詞に出てくる“太く 深く 強く”というのは、まさに川の「三大作用」で、侵食して太くなり、水かさが増して流れが強くなるっていう。それをそのまま落とし込んでいますね。あとやっぱり、大阪が舞台になると「水場」って重要になってくるなあって改めて思いました。道頓堀がど真ん中に流れてたり、淀川もあったりして。大阪にはシンボリックな川が多いんですよ。

濱口:確かに。「水の街」っていうイメージはありますよね。

──監督は「RIVER」を初めて聴いた時にどう思いました?

濱口:「曲を聴いて鳥肌が立つとはこういうことなのか」という思いがまずありました。メロディは勿論なのですが、歌詞を聴いてとにかく驚きましたね。「ここまで作品のことを深く理解してくださっていたのか!」って。

tofubeats:いやあ、そう言ってもらえてありがたいです(笑)。

濱口:tofuさんにオファーした段階ではまだ撮影にも入っていなかったし、原作と脚本くらいしか共有できるイメージがなかったんですよ。それなのに、映画の中で言いたかったことを歌詞が全て言ってくれているみたいな。逆に心配になりました(笑)。この曲がラストにかかるということが決まったわけだから、それに恥じないようなラストシーンを撮らなきゃなという風に思いましたね。それで撮影中はずっと、tofuさんから送られてきたデモを聴いていました。


©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

──本編の中で流れる劇伴についてはどうでしたか?

tofubeats:最初は割と作り込み過ぎてしまったというか。「映画のサントラってこんな感じかな」みたいなものを送ってしまったんですけど、監督から「楽曲というよりも、もっと音に寄った感じで大丈夫です」と連絡が来て。参考音源として確かフォー・テットの最新作(『New Energy』)も送ってくださったのかな。それでだいぶイメージがつかめましたね。

劇伴というのは、楽曲単体で成り立つものではなく、映像と組み合わさって初めて威力を発揮するというか。思った以上に音数を差し引いても成り立つということを、やってみて学ぶ事が出来ました。

濱口:結構、曖昧なシーンというか、色んな解釈が成り立つシーンがこの映画には多いんです。そこに、あまり主張の激しい音楽が乗ってしまうと、解釈も狭まってしまうというか。曲を単体で聴いた時には全く問題なかったんですけど、実際に映像を当ててみて気づくことも結構多かった。だから、僕にとってもすごく学ぶ事が多かったです。

──こんなに音が少なくても、ちゃんと「tofubeatsらしさ」って滲み出るんだなって思いました。やっぱり、音色の選び方や、和声の組み立て方などに出るんですかね。

tofubeats:それはそうかも知れないですね。

──ところで、現在は新作のレコーディング中ですか?

tofubeats:はい。今のところ、ゲストが0人なんですよ。シングル3曲は全て僕がヴォーカルを取っているし。なんでこんな事になったんだろう?と思いながら作っているので(笑)、おそらく今までとは随分違ったものになると思いますね。

──今回の「RIVER」もそうですが、tofuさんのヴォーカルはどんどん表現力に深みが増していますよね。

tofubeats:いやいや、今回も歌うつもりなくて「熱い歌詞を書いちゃったな」と思ってたんですが、まさか自分が歌う事になるとは(笑)。

濱口:いや、もうデモの段階からtofuさんのヴォーカル以外考えられないと思いましたね。


©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

──では最後に、この映画をどんな人に観てもらいたいかをお話しいただけますか?

濱口:あらゆる人に観て欲しいという思いはありつつ、何ならまだ恋に憧れている段階の人に観て欲しいですね。「恋愛って、こんなことも起きるんだよ?」って。

──それはちょっと、トラウマになりそうですね……(笑)。

濱口:(笑)。でも、その一方で「恋愛することの良さ」も伝わってくれないかなと思います。

tofubeats:あ、それも僕は思いましたよ。今回、話題に出ませんでしたが串橋(瀬戸康史)とマヤ(山下リオ)がすごく良いんですよ。あの2人が画面に登場すると安心する。

濱口:確かにね。あの2人には幸せになって欲しい、本当に(笑)。




映画『寝ても覚めても』
9月1日(土)、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国ロードショー

出演: 東出昌大 唐田えりか   瀬戸康史 山下リオ 伊藤沙莉 渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子
監督: 濱口竜介 原作:「寝ても覚めても」柴崎友香(河出書房新社刊) 音楽:tofubeats
英題: ASAKOⅠ&Ⅱ  2018/119分/カラー/日本=フランス/5.1ch/ヨーロピアンビスタ
製作:『寝ても覚めても』製作委員会/ COMME DES CINÉMAS 製作幹事:メ〜テレ、ビターズ・エンド 
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント 配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
www.netemosametemo.jp 

(C)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS


tofubeats「RIVER」
unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン
デジタル配信中

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