アンダーソン・パークが目指す、ネクストレベルのヒップホップ

アンダーソン・パーク 2018年7月ロンドンにて撮影(Photo by Hollie Fernando for Rolling Stone)

南カリフォルニアが生んだ気鋭のラッパーのアンダーソン・パークが、世界中を飛び回るツアー生活、ドクター・ドレーとのコラボレーション、欠かさない水分補給、そして新作『Oxnard』に込められた大きな野心を語った。

「俺は決して、一夜にして成功を収めたわけじゃないんだ」

多くのリスナーはアンダーソン・パークのことを、彗星の如くシーンに現れた新星と捉えているだろう。しかしそれは事実ではない。彼らの大半がアンダーソンのことを知ったきっかけは、ドクター・ドレーの2015年作『コンプトン』だったはずだ。あるギグでアンダーソンが披露したフリースタイルに衝撃を受けた伝説のプロデューサーは、同作の最終曲で彼をゲストに迎えた。その後発表された自身のアルバム『マリブ』がグラミー賞にノミネートされたことで、アンダーソン・パークの名前はヘッズたちの間で一気に知れ渡った。ドレーのアフターマスとの契約を果たし、客演の依頼が絶えないという彼は現在、かつてない大きなチャンスを目の前にしている。

「変に浮き足立つことなく、真新しい車を運転しようとするような感じだね」現在32歳、ツアーでイタリアを訪れていたラッパー兼ドラマーの彼は、電話越しに本誌記者にそう語った。「『マリブ』の時は予算も全然なくて、最低限の設備しか使えなかった」 あれから2年が経ち、状況は大きく変わった。「メンタリティは当時のままだけど、環境は一変したね。今じゃ毎日のようにカラマリとロブスターを食べて、フェスティバルで4万人の前で演奏してる。専用のツアーバスも使えるようになったしね。俺には子供が2人いて、側でしっかり支えてくれる嫁もいる。恵まれてるってことは自覚してるけど、ダチの家のカウチを寝床にしてた頃のハングリー精神は無くしてないつもりさ」

アンダーソンは現在、今年後半にリリースが予定されている次作『Oxnard』の制作に追われている。自身が生まれ育った南カリフォルニアの町の名前をタイトルに採用したのは、ルーツを忘れまいとする彼の意思表示に他ならない。「世界中を飛び回るようになったからこそ、自分がどこから来たのかを意識する必要があるんだ」 彼はそう話す。

サイケデリックなグルーヴと自信に満ちたヴァースが絡み合う次作は、メジャーレーベルのラップが一世を風靡した時代へのトリビュートと言うべき内容となっている。誰もがシーン屈指のプロデューサーたちによるビートを欲した当時、アーティストは常にのるかそるかの大博打を強いられた。「今のシーンには野心が欠けてるように思うんだ」 彼はそう話す。「これは俺が高校生だった頃に夢見たアルバムなんだよ。(ジェイ・Zの)『ザ・ブループリント』、ザ・ゲームの『ザ・ドキュメンタリー』、(カニエ・ウエストの)『ザ・カレッジ・ドロップアウト』なんかに夢中だった頃の俺が、頭の中で完成させようとしてた作品なんだ」

ドクター・ドレーのレーベルとの契約は、その実現に向けた大きな一歩だった。「ドレーは文字通り、ヒップホップ界の頂点にいる人だからね」 アンダーソンはそう話す。「そんな人物と一緒にアルバムを作ってるんだからね、夢を見てるような気分さ」 最近はプロデュース業から距離を置きつつあるドレーだが、彼は『Oxnard』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。この上ないパートナーを得た今、大きな目標に向かって航海に乗り出したアンダーソンは、荒波に飲まれないようしっかりと舵を握りしめる。

「自分を信じ、目標に向かってまっすぐ進み続けること。大切なのはそれだけさ」 彼はそう話す。「他にあるとすれば、どんな時も水分補給を怠らないことだね」



ー過去2年間で、ライブパフォーマンスに変化は生まれましたか?

まず第一に、ショーに来るお客さんが増えたね(笑)ブルーノ・マーズやJ・コールとツアーを回ったり、ビヨンセのコンサートで前座を務めたりしたことは、俺らにとってすごく貴重な経験だった。ステージに立つ上で最も大切なのは自信だって、俺は彼らから学んだんだ。

Translated by Masaaki Yoshida

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