ダーティー・プロジェクターズが明かす、進化し続けるアンサンブルの背景にあるもの

ダーティー・プロジェクターズ、写真中央(左から3人目)がデイヴ・ロングストレス。Photo by Jason Frank Rothenberg

フジロックでのステージも好評だったダーティー・プロジェクターズ。今回は中心人物のデイヴ・ロングストレスに、「Jazz The New Chapter」シリーズで知られるジャズ評論家の柳樂光隆が直撃。バンド独自のアンサンブルに迫った。

ダーティー・プロジェクターズは前作『Dirty Projecoters』で現行のR&Bにも接近しつつ、パートナーとの別れの傷を癒すための祈りのようなメランコリックなサウンドを提示した。そこから1年ほどのスパンで発表された『Lamp Lit Prose』は一転、明るく躍動的だっただけでなく、音楽的な野心にも満ち溢れたサウンドで新たな最盛期を感じさせる傑作となった。

一時期のダーティー・プロジェクターズの代名詞でもあったポリリズムを発展させたようなリズムへのチャレンジから、フレッシュで刺激的なポリフォニーが生む響き。ポップと前衛が隣り合わせになったダーティー・プロジェクターズの魅力が進化したサウンドが鳴っていた。そのDAW以降のポリフォニックなアンサンブルは、ビョークやポール・サイモン、くるりやceroが最新作で取り組んでいることとも無縁ではないように思う。

僕はフジロックへの出演で来日していたデイヴ・ロングストレスに、ひたすら音楽の話をぶつけてみた。言葉を選らびながら慎重に話し、あまり多くを語りたがらないデイヴだったが、『Lamp Lit Prose』を紐解くためのヒントくらいは聞き出せた気がする。

―『Lamp Lit Prose』の音楽的なコンセプトやアイデアのもとになったものがあれば聞かせてください。

デイヴ:ソランジュやカニエ・ウェストとのコラボレーションもそうだし、ニジェールのギタリスト、ボンビーノのアルバム『Azel』をプロデュースしたこと、ジョアンナ・ニューサム『Divers』でのオーケストラ・アレンジなど様々な仕事、そして前作『Dirty Projectors』でのコラボレーションによって新しい視点が与えられたことが大きいね。ソングライターとしても、サウンドの作り手としても、それらの経験を経て得たものがここ2枚のアルバムに活かされていると思う。

―例えば、ボンビーノから得たものってどんなことでしょう?

デイヴ:彼は3カ国語も話せるのに、英語はあまり話せなかった。だから、言葉じゃなくて、音楽でコミュニケーションをとったんだ。彼のバンドのメンバーで英語を話せる人からいろんな話を聞いたことからも影響を受けたね。小さな村の出身で、そこではどんな生活をしていて、今、その人たちが世界に出ていって、その音楽をどう広めているかみたいな感じで、音楽の在り方自体が僕とは違うものだったから、それがすごく刺激になったよ。


デイヴがプロデュースした、ボンビーノの2016年作『Azel』

―「音楽でコミュニケーションをとる」って、具体的にはどういう感じですか?

デイヴ:楽器を鳴らしながらだよ。ボンビーノはすごく表現力がある人だから、コミュニケーション的な要素は演奏の中に含まれているんだ。僕はただ圧倒されるままにその彼の演奏家としての力量や音楽性を感じ取っていた。ちなみにホーンやストリングスは譜面で渡したけど、他は自分で歌って聴かせるとか、自分で録ったものを聴かせるとか、そうやって伝えたんだ。

―その経験はダーティー・プロジェクターズにどう反映されていますか?

デイヴ:他のものも含めて、全ては車輪のスポークのひとつだと思う。ただのバンドリーダーとしての自分の役割だけじゃなくて、曲を作るとか歌詞を書くってことに専念することができるプロジェクトに関わってきたことによって得たものなので、具体的っていうよりは、抽象的な影響だと思うね。

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