オーバードーズによる死亡説を否定する新証言、ジャニス・ジョプリンを襲った悲劇とは

ジャニス・ジョプリンの親友はドラッグによるオーバードーズ死亡説を否定した(Photo by © Hulton-Deutsch Collection/CORBIS/Corbis via Getty Images)

ジャニス・ジョプリンのドラッグによるオーバードーズ死亡説を否定する、ペギー・カゼルタの著書『I Ran into Some Trouble』が発行された。

ジャニス・ジョプリンが1970年にハリウッドのホテルの一室で死んでいるのが発見された時、死因はヘロインのオーバードーズだと発表された。しかし、警察からやや遅れて現場に到着したという親友のペギー・カゼルタには、どうしても腑に落ちない点があるという。それは現場で目にしたジョプリンのそばに、ハイヒールのサンダルが転がっていたことだ。

「ベッドからはみ出した彼女の足が見えたの」カゼルタは当時の状況についてそう語る。「片手に煙草を、もう片方の手には小銭を握りしめた状態で横たわってた。それから何年もの間、私はずっと疑問に思い続けてた。死に至るほどヘロインを摂取した状態でロビーまで出て、(自販機で煙草を買って)部屋まで戻って来るなんてことができるのかって。私自身、オーバードーズを経験したことがあるからわかるの。本当にそういう状態なら、フィリップ・シーモア・ホフマンのような死に方をしてたはずなのよ。考えないようにしてたけど、私の中ではずっと何かがひっかったままだった」
 
彼女とマギー・ファルコンが共同執筆した伝記本『I Ran into Some Trouble』 (Wyatt-MacKenzie出版)で、カゼルタは現場で目にした「小さな砂時計のようなヒールがついたサンダル」を根拠に、客室の毛の長いカーペットに足を取られて転んだジョプリンが、ナイトスタンドで顔面を強打して鼻を骨折し、喉が血で塞がれたために窒息死したという持論を展開している。同日に別の場所で、ジョプリンが所持していたものと同種のヘロインを摂取したというカゼルタは、その持論に大きな自信を持っている。「あのヘロインが死に至るほどのものだったとは思えない」彼女はそう話している。「絶対に違うと断言できるわ」

ジョプリンの生前と死後におけるカゼルタの生涯を綴った『I Ran into Some Trouble』は、興奮を求める彼女のワイルドな生き様、そしてカウンターカルチャーのダークな側面を描いてみせる。1965年に彼女がヘイト・アシュベリーにオープンさせたヒッピー向けの洋服店、『Mnasidika』には多くの有名人が訪れ、その中にはジョプリンや結成されたばかりのグレイトフル・デッドのメンバーたちも含まれていた(「『今週末デッドのギグはあるのか?ぶっ飛びたい気分なんだよな』なんて言ってくる輩が絶えなかったわ」)。出回り始めたハードなドラッグから当初は距離を置いていた彼女だが、ジョプリンの死をきっかけにヘロインに依存するようになる。「あまりに強烈で、完全に正気を失ってた」彼女はそう話す。「いつ死んでもおかしくないって自覚してた。自分の運命は風に任せればいい、そう思ってたの」

『I Ran into Some Trouble』には、彼女とジョプリンの関係を赤裸々に綴った(2人はハイになったまま同じベッドで眠ったという)1973年発表の『Going Down with Janis』の内容を正すという目的がある。カゼルタによると、同書の内容は共同著者の主観であり、彼女の考えは反映されていないという。「私はジャニスのことを、あんな風にわいせつに描いたりしない」彼女はそう話す。「私たちの関係について、私はあんな風にとらえたことは一度もないわ。でも私がドラッグ依存で自分をコントロールできなくなっていて、間違いを犯したことは事実よ」ドラッグの売買に手を染め、メキシコで収監されたアメリカ人たちを脱獄させる手助けをしていたカゼルタは、後に服役を経験している。1980年に出所した彼女は、年老いた母親の面倒を見るために戻った故郷の南部で、猛烈なハリケーンの被害を経験した。「こんな時にハリケーンだなんて、まさに泣きっ面に蜂だった」彼女はそう話す。「だけど、私は今もこうして生きてる。そのことに感謝してるの」

ミシェル・ウィリアムズが主演を務めるジョプリンの伝記映画において、カゼルタはコンサルタント役を務めている。ジョプリンがゲイだったという説の真偽は不明だが(カゼルタは彼女はバイセクシャルだったとしている)、彼女がジョプリンの魅力を誰よりもよく知る人物の1人であることは疑いない。「明るくて自信に満ちていた彼女は、いつも思ったことをはっきりと口にしたわ」カゼルタはそう話す。「彼女は魅力的だったけど、自分ではそう思っていなかったみたい。彼女の恋人になりたいって思ってた女性は多かったんじゃないかな」

ジョプリンの死因について、カゼルタは確信を持っている。「今も気にかけている人なんていないのかもしれないけど」そう前置きした上で、彼女はこう続ける。「私は真実を伝えたい。彼女の死因がオーバードーズではなかったという真実をね。私は死ぬまで主張を曲げるつもりはないわ。生死の境を彷徨ったことがあるからこそ、私にはわかるの」

Translated by Masaaki Yoshida

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