米ラグジュアリーホテルがレコードレーベル事業をスタート

Wホテルが新たに設立したWレコーズ 契約アーティスト第1号はAmber Mark(Photo by Lloyd Bishop/NBC/NBCU Photo Bank via Getty Images)

ついにホテルがレーベル化する時代になった。スターウッド・ホテル&リゾーツ・ワールドワイド系列で世界展開をしているラグジュアリーホテルの「Wホテル」がレコードレーベルを立ち上げた。記念すべき契約アーティスト第一号は、R&Bシンガーソングライターのアンバー・マークに決定。

音楽業界で新たなレーベルが産声を上げた。その名もWレコーズ――業界の大物やアーティストの手によるものではなく、マリオット系列の次世代ラグジュアリーホテル・チェーン、Wホテルの新事業だ。

今週火曜日よりスタートしたWレコーズは、来年にかけて新進気鋭の4人のアーティストと契約を結ぶ予定とのこと。レーベルは契約アーティストに対し、レコーディング場所やビデオ撮影のロケーション提供、ミキシングやマスタリングのサポート、またライブコンサートやストリーミング配信、限定レコード盤の販売等で楽曲を配信する。Wレコーズの契約アーティスト第1号となったのは、ニューヨークを拠点に活躍するR&BシンガーソングライターAmber Mark(アンバー・マーク)。今年の夏、ハリウッドにあるホテルWハリウッドのWサウンドスイートで2曲レコーディングし、今年秋にリリースする予定だ。

奇抜なアイデアに思えるかもしれないが、Wホテルではレコードレーベルの設立を、自社が「長らく築いてきた音楽業界関係者、プロモーター、メディアやインフルエンサーらとの協力関係」が結実したものとみなしている。同社ではすでに複数の都市で、アーティストのためのレコーディングスタジオをホテル施設内に完備。また独自の音楽フェスティバルWAKE UP CALL(ずいぶん直球なネーミングだが)も主催している(訳注:モーニングコールのこと)。「Wレコーズの誕生は間違いなく、Wと音楽業界にとって自然な流れです」Wのグローバルブランド・リーダー、アンソニー・インガム氏はプレスリリースでこのように述べている。「我々が行ってきた画期的な音楽事業を、360度、包括的にとらえてゆこうという試みです。将来有望な才能に手を差し伸べ、レコーディング場所を提供し、彼らの作品を発信するとともに、ライブ会場としての機能も果たしてゆきます」

Wレコーズと契約したアーティストは、マリオットが全世界で展開する1億1000万人の特典会員に「直接プロモーションをかける」ことができる上、メインストリームとは一線を画した話題作りができると企業側は考えている。ややギミックが強い感もあるが、大成功しないとも限らない。

より広い視点で見れば、ホテル運営のレコードレーベルの誕生は、従来音楽業界で行われてきた制作配信モデルが、ストリーミング飽和時代に崩壊しつあることを如実に語るものでもある。チャートの上位を占めるのは依然レコードレーベル所属のアーティストだが、多くの若いミュージシャンたちが、自分たちの音楽を発信する別のルートを模索している。レーベルに似た新しいタイプの存在も次々誕生し、彼らのニーズを満たしている。

たとえば、ニューヨークのSmalls Jazz Clubのようなライブハウスでは、ライブ演奏の音源を収録し、著作権フリーでアーティストに提供している。オンライン配信のスタートアップ企業も数多くあり、そのうちのひとつUnitedMastersはベンチャーキャピタルから絶大な支援を受け、「君の未来にレーベルはいらない」というモットーを掲げている。Spotifyも、最近ではインディーアーティストたちが自分たちの楽曲を直接アップロードできる機能をスタート。音楽業界を活性化すると同時に、脅かす存在となっている。


Translated by Akiko Kato

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