中国が目をつけたノースカロライナの養豚業、悪臭は「お金の香り」

スミスフィールドは被害者たちによる訴訟を、弁護士や活動家にそそのかされた“ゆすり”の一種だと表現している。スミスフィールドの主要関連会社で当時広報担当役員を務めていたドン・バトラーと共に農場を訪れた際、彼は悪臭に関する問題をほとんど否定し、“養豚場は周辺住民に悪影響を及ぼす”という科学的判断に疑問を呈した。バトラー曰く、「会社はミラーや周辺住民からいかなる苦情も受けていない」としている。しかし私がミラーの近所に住む5世帯に取材したところ、全員が似たような呼吸器の問題を訴え、農場からの悪臭への不満を漏らした。住民の誰もバトラーの会社へ問題を報告していないが、やり方がわからなかったのと、それで会社が何かしてくれるとも思っていなかったのだ。ミラーの亡くなった甥の妻ルース・ボイキン・ウェブは、バトラーが彼の会社は「何のクレームも受けていない」と話した際に指差した家に住んでいるが、「私も引っ越したい。でもお金がない。養豚場のオーナーもここへ来て我々と一緒に過ごしてみるといい。オーナーは養豚場の近くには住んでいない」と私に語った。

デュプリン郡における豚の排泄物による問題は、全国的な問題に広がってきている。米国環境保護局の人権問題担当部門は、ノースカロライナ州に対して書面で“深刻な懸念”を表明した。また、議会へ提出された豚の排泄物に関する現行の管理制度の緩和案は、委員会で棚上げされている。前出のブッカー民主党上院議員は同地区を2度訪れ、産業公害がマイノリティのコミュニティに大きな悪影響を及ぼしている惨状を訴えている。「米国民は、中国の企業が豚肉製品を米国外へ輸出する目的で、我が国の土、水、人を汚染している現状を知らない」と彼は私に語った。「私は驚愕し、怒りを覚えた。我々がこのように大量な排泄物を処理しなければならない現実は、信じ難かった」


Photo by Rolling Stone

2017年の爽やかなある秋の日、デュプリンの郡政担当官マイク・アルドリッジは私を、整然と管理された5800頭規模の養豚場へ案内し、丁寧かつ誇らしげに説明してくれた。彼はもともと小さな農場で主にタバコを栽培しており、両親から受け継いだ土地で働き続けたいと願っていた。しかし1980年代の後半、デュプリンはタバコの価格の暴落と農業危機により打撃を受けた。多くの家族経営の農場は借金を抱え、大企業に太刀打ちできず、破産していった。養豚で十分稼いだアルドリッジは、土地を手放す必要がなかった。彼は、肥溜めから風に乗ってわずかに臭う程度まで離れた干し草畑へ私を案内しながら言った。「養豚はデュプリン郡の多くの人々や経済を潤してきた。養豚のおかげで人々はここに留まってこられた。養豚がなければこの土地を離れねばならなかったろう」という。彼曰く、デュプリンの農家ではこの土地特有の悪臭を“お金の香り”と呼んでいるという。

その日遅くアルドリッジは、デュプリン郡の郡庁所在地ケナンズヴィルへ徒歩で案内してくれた。ケナンズヴィルは人口855人の赤レンガの街で、まるで1950年代へタイムスリップしたようだった。通りすがりの顔見知りと挨拶を交わしながらアルドリッジは、何十年も続く農業洋品店や理髪店、その他の店を指し、仕事や若者が都会へ流出し米国の田舎を荒廃させる中、デュプリンを支えたのが養豚であることを説明した。翌日、養豚で潤っていないノースカロライナ州東部の田園地帯を車で走りながら、私はまた別の状況を目にした。大通りのほとんどが板張りだったのだ。養豚産業を研究するノースカロライナ州立大学のケリー・ゼーリング教授によると、「豚や家禽の飼育をしていないノースカロライナの田園地帯と比べ、養豚業の盛んな地域はより活気があり繁栄してきた」という。ノースカロライナ・ルーラル・センターで調査員を務めるグレイは言う。「養豚場の近くに住みたいとは思わない。でも好き嫌いにかかわらず、養豚はデュプリン郡を経済的に支えている」

Translated by Smokva Tokyo

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