Tempalay『なんて素晴らしき世界』にあふれるユニークな視点

「時代的に想像力や余白が欠如してると思うので、なんのために芸術があるのかって考えるんですよ」(小原)

ーかなり削ぎ落としたという「どうしよう」は、イントロのギターのフレーズのセンスとリフのキャッチーさが印象的ですが、ほかの楽曲も含め、どういう状態の時にアイデアが思い付くんですか?

小原:ああいうフレーズはなにも狙わないからすぐ作れちゃうんです。僕、基本的に練らないんですよね。飽きっぽいので、これをこうしたらかっこ良くなる、みたいなことは考えない。音を出す瞬間まで思いも付かなかったものを弾いたりして。自分のそういうテンションが絶妙にハマったと思います。メロディーに関しても、リフに引っ張られるように作った感じです。

ー歌詞の言葉の選び方に関してはどうですか?

小原:最初の1行はすごく大事にしています。あとは耳障りなものとインパクトを意識して。そこが最初に決まれば、あとは2秒くらいでできちゃうんですけど、とにかく最初の1行にめちゃくちゃ時間がかかります。

ー最近Thundercatをインタビューした際に「めちゃめちゃ頭おかしな状態とシラフな状態がいつも混ざってる感覚。たとえばシリアスな映画を見て、笑っちゃう自分がいる」みたいな話をされていて。それと似たフィーリングをTempalayの楽曲から感じるんです。意味がわからず決まっちゃってる感じと、シラフで冷めてる自分が両方いるみたいな感覚が、Tempalayにもあるのかなって勝手に思っているんですけど。

一同:(頷く)

小原:まさしくその感覚って感じですね。ユーモアのあるものとシリアスなものって、表裏一体ですよね。ホラー映画も見方を変えればコメディーだし。たとえば『マスク』って映画ではコメディとして描かれているけど、実は原作はホラーで、最終的に恋人を殺して自分も自殺するっていう話で。マスクをすることで欲望がドカーンって前に出てきて、秩序がなくなってしまうじゃないですか。

欲望の先にある世界ってそういう悲劇が起こるものだなぁって思うし。でもあれを面白おかしく描くっていう、そういうバランス感が好きで。キューブリックの『時計じかけのオレンジ』も、暴力的なシーンにクラシックが流れるじゃないですか。あれにも似たものを感じますね。

ー通底するものが暗かったり、狂気をはらんでいても、それをキャッチーに見せることで、表面をなぞって楽しかったねって感じてもいいし、もうちょっとその先にあるものを勘ぐってみてもいいしみたいな。

小原:そうそう。そういうのいいですよね。

ーじゃあTempalayのリスナーにも、今作は勘ぐってほしい?

小原:勘ぐってほしいですねえ。色んな想像をして、「これって実はこういうアルバムなんじゃね?」っていう感想をいっぱい聞きたいです。このジャケットと『なんて素晴らしき世界』というタイトルを見て、さらにこれを聴いてどう感じるのかは基本的に委ねたいんですよね。なんでもそうですけど、余白のあるものがやっぱり美しいと思うので。今、時代的に想像力や余白が欠如してると思うので、なんのために絵とか音楽とか、芸術があるのかって考えるんですよ。だから単にわかりやすいものにはしたくないなって。

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