映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が語る、「北米のラップが日本に本格上陸するまでに越えねばならないハードル」とは?

チャンス・ザ・ラッパー(Photo by Kevin Winter/Getty Images for Coachella)

音楽評論家・田中宗一郎と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が旬な音楽の話題を縦横無尽に語りまくる、音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan」の人気連載「POP RULES THE WORLD」。2018年9月25日発売号の対談では、欧米のメインストリームを席巻しているラップがこれから日本でも浸透していくのか? といった問題について議論が交わされている。

宇野はフジロック・フェスティバルでケンドリック・ラマー、サマーソニックでチャンス・ザ・ラッパーというアメリカの人気ラッパーが成功を収めたことを高く評価しつつも、「その先にはまだまだハードルがいくつもある」と指摘している。

宇野「あの2人のステージって、既存のフェスに親しんできた人にも伝わりやすいタイプのものなんだよね。というのも、どちらも生バンドがいて、強烈なカリスマ性の持ち主で、観た人全てが絶賛するしかないような説得力があった」

その前提を踏まえた上での「ハードル」を、宇野はこのように解説する。

宇野「この1、2年アメリカでいろいろライブを観てきたけど、あの2人や、例えばフランク・オーシャンのライブなんかは、日本人にも相当わかりやすいほうだと思う。でも、例えばフューチャーやミーゴスやドレイクなんかは数万人規模の会場をターンテーブルだけで廻っているわけですよ。ラップの部分まで入った音源も平気で使ってる。しかも、チャンスやフランクみたいにメロディ主体の音楽じゃない。それでも、彼らの場合はそれだけでエンターテインメントとして成立する。なぜかというと、客がステージと一体となって盛り上がって、それ自体が新しいエンターテインメントの形になってるから。そこも含めてのカルチャーなんですよね。そんな彼らが来日するとして、小さいハコだったら問題ないだろうけど、フェスに出るとしたらどうなるのか。最近のドレイクやトラヴィス・スコットのライブだと、客が一緒に歌いながら飛び跳ねる。あれはこれまでのヒップホップとは明らかに違うノリなんだよね。そうやって、今もどんどん進化してる」



このような宇野の指摘を受けて、田中は今の日本は「オアシスを知らずにレディオヘッドを先に観てしまったようなもの」と議論を補足している。

田中「そもそもケンドリックとチャノ(チャンス・ザ・ラッパー)が先に来たのも歪つといえば歪つなんですよ。彼らはラップとポップ、どちらの視点で捉えてもレフトフィールドな存在だから。乱暴な比喩だけど、90年代UKインディで喩えるなら、オアシスの存在を知らないまま、『OKコンピューター』以降のレディオヘッドを先に観ちゃったようなもので。でも、オアシスの位置にはドレイクやトラヴィス・スコット、ウィークエンドがいるわけ。だから、最も優れているとは言えないかもしれないけど、最も共有されているポップカルチャーを、まだ日本は大きな現場で体験していないんだよね」

その後、2人の会話は、世界中のカルチャーが「グローカル」化し、多くの国でアメリカの音楽と自国の音楽が並列で聴かれていることや、いまだローカルが強いという例外的な状況に置かれている日本のアーティストたちが抱く危機感などにまで及んでいる。

Edited by The Sign Magazine

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