映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』と1967年のヒット曲に隠された「悲しみ」の背景

『アンダー・ザ・シルバーレイク』新宿バルト9ほか、全国順次公開中(2017 Under the LL Sea, LLC)

過去と現在をつなぐという意味でも、最近の映画やドラマの劇中歌が果たす役割は大きい。物語を盛り上げる「曲」にフォーカスし、そのメッセージや背景を掘り下げる連載「サウンド・アンド・ヴィジョン」。第四回目は映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』で使用された「ネヴァー・マイ・ラヴ」を取り上げます。

※この記事は9月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.03』に掲載されたものです。

Beware The Dog Killer(犬殺しに気をつけろ)」

窓ガラスにスプレーで書かれたそんな落書きを憮然とした表情で拭き取ろうとしているカフェ店員の女の子。『イット・フォローズ』で名をあげたデヴィッド・ロバート・ミッチェルの最新監督作『アンダー・ザ・シルバーレイク』はそんなシーンで幕を開ける。

そのカフェの常連である主人公サムは、同じコンドミニアムに住む美女サラと仲良くなるものの、その夜彼女は予告なく姿を消してしまう。そして数日後に大富豪が引き起こした自動車死亡事故の現場から彼女の帽子が発見される。

「サラは何らかの事件に巻き込まれたにちがいない。きっとどこかで生きている」。そう確信したサムはにわか探偵として、彼女の消息を求めてロサンゼルス中を駆け回るようになる。サラが女優志望という設定だったり、主人公が行く先々で死体に遭遇するというその後の展開は、同じ街を舞台にしたレイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説へのオマージュだろう。しかし監督のミッチェルは、こうしたプロット以前に「ロサンゼルスという街自体が死の街なのだ」というメッセージを映画のあちこちに忍ばせている。



例えば冒頭シーンで女の子が着ているTシャツ。プリントされているのは60年代後半にドアーズのヴォーカリストとして一世を風靡しながら、1971年に不可解な死を遂げたジム・モリソンだ。例えばサムが、ヌードで泳ぐサラの姿を妄想するシーン。このシーンのカット割は事故死したはずの妻が生きていたというプロットを持つコメディ映画『女房は生きていた』(1962年)を下敷きにしているのだが、映画自体は未完成に終わっている。主演のマリリン・モンローが急死したからだ。ちなみにサラ役のライリー・キーオはあのエルヴィス・プレスリーの孫にあたる。サムが迷い込むパーティ会場はハリウッド・フォーエヴァー霊園という墓地で、本作にも多大な影響を与えている映画監督アルフレッド・ヒッチコックらが葬られている。故カート・コバーンが愛用していたことで知られるギター、フェンダー・ムスタングも笑うしかない奇妙な登場をする。

そして何よりもサムが捜査の途中で事件の黒幕に近い存在として疑うポップ・グループ、“イエスとドラキュラの花嫁たち”に注目してほしい。カリスマ性溢れるリーダーと彼を囲む若い女たちという編成やファッション・センスは、明らかにチャールズ・マンソンが60年代後半に率いていたカルト教団“ファミリー”を意識している。

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