今市隆二インタビュー「R&Bの本質と共鳴するエモーション」

・日本語でR&Bを歌う意義は確実にあります

ー近年、R&Bは様々なジャンルの音楽と融合することで、世界中で勢いを増している印象です。今市さんは、昨今のR&Bシーンをどう見ていますか?

今市:個人的には、少し前のEDMムーブメントのときは、シンガーとして少し悔しい気持ちも抱いていました。R&Bの勢いが落ちていた時期もあって、時代の流れだから良いとか悪いとかではないのですが、歌い手としては寂しくもあった。でも、最近はブルーノ・マーズのような新しいポップスターも出てきて、それがすごく楽しいですね。ただ、トレンドという視点からいうと、ヒップホップにせよ、R&Bにせよ、ファンクにせよ、世界中の人がいっせいに聴くようなヒット曲は生まれにくくなっていて、アーティストたちは誰もが方向性を模索している状況なのかなと感じています。

ーストリーミングサービスが一般化してきたのも、その一因かもしれません。

今市:ストリーミングサービスが浸透して、個人が好きな楽曲を好きなように聴くようになってからは、さらにその傾向は加速していると思います。そのなかで、R&Bアーティストとしてどうあるべきかを考えるのは、とても難しいと感じつつも、大きなやりがいも感じています。

ー最近、気になったアーティストを教えてください。

今市:女性R&Bシンガーなんですけれど、ジャネール・モネイの新作『Dirty Computer』はすごく良かったですね。彼女は昨年話題となった映画『ドリーム』に、主要キャラクターの一人として登場した女優でもあって、すごく才能のある方だなと感じていました。音楽性の幅も広いし、アルバムごとに凝ったコンセプトを提示していて、すごく面白いんですよね。

ー具体的に、今後、挑戦してみたい表現はありますか?

今市:今は、90年代のサンプリングをメインとしたヒップホップのサウンドに惹かれていて、その手法を現代的に表現できないかと考えています。今年の2月にNe-Yoが「Good Man」という楽曲をリリースしたんですけれど、それはD’Angeloの「Untitled(How Does It Feel)」をサンプリングしているんです。過去の名曲を、現代のセンスを踏まえてリバイバルさせるのは、新しい音楽を生み出す上での普遍的な手法だと思いますし、その意味でもサンプリングは今、再評価すべきだと思います。僕も30歳を過ぎて、ようやく“音楽の流行は繰り返される”という現象をリアルに体感できているので、今こそ挑戦したいです。

ーやはり、世界展開も視野に入れているのでしょうか?

今市:日本人に生まれたので、日本の音楽をもっと世界に伝えたいという気持ちはあります。日本の音楽がなかなか世界に届きにくいのは、言語的な壁があるのはもちろん、国内マーケットに向けた作りになっているというのも大きいと思います。ただ、最近はどんどん日本と世界の間にある壁は低くなっていると感じていて。情報のスピードも速くなりましたし、海外の方の日本のカルチャーに対する理解度もかつてより随分と上がっているように思います。最近は、和のテイストをバランスよく取り入れる海外のアーティストも少なくないですし、そうした楽曲には独特のエキゾチズムというか、ジャポニズムがあってかっこいいんですよね。そうなると、日本語ならではの柔らかい響きも、音楽的な魅力として打ち出していくことは決して不可能ではないのかなと。

ー日本語でR&Bをやることへの意義を感じていると。

今市:日本語はリズムが立ちにくい言語なので、特にR&Bやヒップホップのようなリズム表現に特徴がある音楽を成立させるのは、本当に難しいことです。STYさんが作る楽曲などは、日本語の配置の仕方でうまく英語っぽく聴かせるのが本当に上手で、そうした手法には刺激を受けますね。しかも、そのうえでちゃんとメッセージ性がある楽曲に仕上がっているからすごいです。そうしたクリエイティブな部分に、日本語でR&Bを歌う意義は確実にありますし、それを海外の方が聴いたときに、日本語特有の発声に魅力を感じる可能性はあると思います。


Photo by Tsutomu Ono
シャツ ¥125,000、パンツ ¥93,000、シューズ ¥130,000(すべてDior Homme/クリスチャン ディオール TEL:0120-02-1947)、そのほか本人私物 ※すべて税抜価格表記となります。


ー確かに、日本語のちょっとしたフレーズをサンプリングしたりするトラックメイカーも少なくないですからね。

今市:もしかしたら、三代目J Soul Brothersが次に目指すのは、日本語の音楽ならではの魅力を世界に発信していくことなのかもしれないと、最近では考えていますね。実際、海外の一流のアーティストとのフィーチャリングはどんどん実現していますし、どこかのタイミングで今、僕らがやっていることがバシッとハマれば、すごいことが起きるんじゃないかと予感しています。本当に途方もなく大きな夢になってしまいますけれど、いつかはグラミー賞も受賞してみたいですし、スーパーボウルのハーフタイムショーにも出てみたいと、本気で思っています。

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