「1993 MTV Video Music Award(VMA)」に登場した当時のパール・ジャムは絶頂期だった。エアロスミス、ピーター・ガブリエル、R.E.M.などの強敵を打ち破って「Jeremy」が最優秀ビデオ賞を獲得しただけでなく、イベントで披露したライブは、バンドがミュージックビデオの制作から遠のいても引き継がれ続ける、貴重な資料映像となった。イベントは、ニール・ヤングがステージでパール・ジャムとともに1989年のヒット曲「ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド」をパワフルに演奏すると最高潮の盛り上がりをみせた。ヤングはジーンズとTシャツにネイティブアメリカンのネックレスという姿でふらりとステージに現れ、ボーカルのエディ・ヴェダーが歌う二番のように、荒々しさを振り絞って一番を歌い上げ、ふたりのボーカリストのハモりによるコーラスへと続いた。演奏は7分にわたり、パール・ジャムのメンバーが楽器を破壊してライブが終了した。
「Jeremy」で最優秀ビデオ賞を受賞したパール・ジャムではあったが、それとは反対に今後はミュージックビデオを制作しないと宣言した。それは受賞の反動だったのかもしれない。「MVAで『最優秀ビデオ賞』とやらを受賞したとき」ヴェダーは当時のインタビューでこのように語った。「ほんとは正直に言うべきだったんだ。『これが最高峰なら、もうミュージックビデオなんて作る必要はないだろう』ってね」その言葉の通り、トッド・マクファーランとケヴィン・アルティエリを起用した1998年の「Do the Evolution」のアニメーション作品までパール・ジャムが公式ミュージックビデオを発表することはなかった。