21世紀、バッハの曲の演奏スピードが速くなった理由

ドイツの作曲家、ヨハン・セバスチャン・バッハ(Photo by shutterstock)

バッハの曲の演奏が50年前に比べて約30%もスピードアップしていることが、レコード会社の研究で判明した。

ユニバーサルの子会社ドイツ・グラマフォンとデッカは、ドイツ人作曲家の生誕333周年を記念したボックスセット『Bach 333』のリリースに合わせて、かの有名な「2つのヴァイオリンのための協奏曲」の様々な演奏音源を集めて研究した。その結果、最近収録された音源は50年前の音源よりも1/3ほど尺が短く、10年で約1分ずつ短縮していることが明らかになった。

こうした傾向は、昨今のより速いテンポの音楽の流れを汲んでいるといえよう。オーディエンスの関心の幅が狭くなる一方、ストリーミングによってアーティストや作曲家は、1秒1秒に神経をとがらせるようになっている。

バッハ「2つのヴァイオリンのための協奏曲」(BMV1043)

1961年:演奏:ダヴィッド&イーゴリ・オイストラフ
第1楽章 ヴィヴァーチェ 4’15”
第2楽章 ラルゴ・マ・ノン・タント 7’32”
第3楽章アレグロ 5’28”
合計 17’15”

1978年:演奏:アルトゥール・グリュミオー&ヘルマン・クレバース
第1楽章 ヴィヴァーチェ 3’57”
第2楽章 ラルゴ・マ・ノン・タント 6’41”
第3楽章アレグロ 5’04”
合計 15’42”

2016年:演奏:ネマニャ・ラドゥロヴィチ&ティヤナ・ミロセヴィチ
第1楽章 ヴィヴァーチェ 2’56”
第2楽章 ラルゴ・マ・ノン・タント 5’42”
第3楽章アレグロ 3’56”
合計 12’34”

「一般的にポップミュージックは、社会の変化に呼応する。だから、あらゆるものが速くなっている」と語るのは、スウェーデンのプロデューサー、マックス・マーティン。2016年のインタビューで、ブリトニー・スピアーズの「ベイビー・ワン・モア・タイム」やケイティ・ペリーの「ティーンエイジ・ドリーム」、ザ・ウィークエンドの「キャント・フィール・マイ・フェイス」、テイラー・スウィフトのヒットソングの数々など、彼が手掛けたチャートNo.1ソングの特徴をこのように分析した。だが音楽の歴史を見てみれば、新しい波には必ず反動がある。最近のポップソングの中には、あえてテンポを落として存在感をアピールしている曲もある。

つまり、すべてのジャンルがスピード化に向かっているというわけでもない。クラシック音楽の演奏に関して言えば、バッハで見られた傾向が、他のクラシック作曲家にも当てはまるとは限らない。イギリスの音楽研究家ニコラス・ケニオン氏は、今回の研究結果と合わせて発表されたリリースの中で、近代のオーディエンスは「軽快で明るく、透明感のあるサウンドを好む傾向にあり、バッハやヘンデル、モーツァルトなど多くの作曲家の作品でも応用されている」と指摘。すなわち、「従来の重々しいスタイルよりも、空気のように軽くしなやかなものへ、嗜好が根本的に変化している」ことを示している。ただし、ポップミュージックにならってバッハもスピード化している理由には、この曲がもともと速いテンポに向いているから、と言うのもある。他の室内楽やバロック時代のオペラの場合は、こうはいかないだろう。

Translated by Akiko Kato

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