King Gnu常田大希が「憧れの気持ち」を抱く14冊

ー『TOILETPAPER』は、イタリア出身の現代アーティスト、マウリツィオ・カテランらが2010年に始めた雑誌ですが、彼らのように批評的なことをキャッチーに見せる表現に憧れる部分もあるのでしょうか。

常田:そうですね。『TOILETPAPER』は、先輩の映像ディレクターから教えてもらったんですけど、挑戦的なビジュアルをポップに落とし込んでいるのが、すごく面白いなと思います。色彩も、質感もいい。雑誌という媒体で、今の時代にフィジカルを出すというのも、いろいろな思いがあってのことなんだろうなと思います。『TOILETPAPER』のウェブサイトも凝っていて、かなり見にくくて親切じゃないんですけど、すごくかっこいいんですよ。ファッション誌の表紙のプロデュースとかもやっていて、ここ数年で、日本でも知名度が上がっていますよね。

ー絵の具をまき散らすような「アクションペインティング」の画法で有名なジャクソン・ポロックの画集も挙げられていますが、彼には、どういうところに惹かれますか?

常田:音楽には、コードとかリズムとかいろんな「型」があって、その「型」からは逸脱しにくいんですよね。ジャクソン・ポロックの絵は、音楽には落とし込みにくい自由さがあると思うんです。音楽で言うとフリージャズとかに近い質感があるとは思っているんですけど、こういう自由でアブストラクトな表現に憧れます。King Gnuにも、勢い的には近いところがあるかもしれないけれど、言っても「J-POPのなかで表現する」ということを常々意識しているので。


Photo by Masato Moriyama

ーそうやって、アートなど音楽以外のものから得た感覚を音楽作品に落とし込もうとすることは多いですか?


常田:なんでも当てはめられると思うんですよ。写真家のソール・ライターに関しては、一枚の写真の「枠」の切り取り方がすごく好きなんですけど、彼の写真集を見ながら「音楽にとっての『枠』って、なんだろう?」と考えたり。音楽の「対位法」とは、ひとつの旋律に対して、もうひとつの旋律をどう書くかということなんですけど、それは写真にも当てはめられると思うんですよね。あらゆるものがつながっているし、「デザイン」の意味を広く捉えたら、「音楽をデザインする」とも言えると思います。

ー常田さんは、King Gnuのミュージックビデオやアートワーク、その他企業広告なども手がけるクリエイティブ集団「PERIMETRON」の主宰者でもあります。そもそも、この集団を立ち上げようと思った理由は?

常田:広告とかファッションに結びついた音楽のほうが自由度が高くて、J-POPより冒険できるし、新しいトライがやりやすいと、個人的には思っているんです。だから、広告ディレクターとかグラフィックデザイナーのやつらと出会うなかで「一緒にやろうよ」と声をかけて、徐々に形になっていった感じですね。

ー広告のほうが、クライアントからの注文などもあって自由度が低いという印象もありますが。

常田:まあ、広告でも、ナショナルクライアントとかだと自由度は高くないのかもしれないけれど……職業作家になった時点で負けだとは思いますね。アーティストとしてちゃんとアサインされることが重要だから、アーティストの知名度が大事だとは思っています。PERIMETRONやKing Gnuとして、圧倒的に他と違うものを作って、「こいつらじゃないとできない」って思ってもらえたら面白くなる。というか、そうならなきゃ意味がない。『ヒプノシス・アーカイヴズ』という本も挙げましたが、音楽系のジャケットとかアーティスト写真を手がけるデザインチームの「ヒプノシス」も、『TOILETPAPER』を作っている人たちも、職業作家的ではないという共通項がありますよね。圧倒的なオリジナリティがあるから、注文も来るし、金も稼げる。チームとしてリスペクトしているというか、意識している存在です。

ー小説も4冊挙げられていますが、どういった小説や作家に惹かれますか?

常田:キャッチーなものが好きだと自分では意識しているんですけど、あんまりそうは思われないかも(笑)。パンチのあるものが好きですね。村上龍は、中高生の頃に好きで、『希望の国のエクソダス』以外に、『コインロッカー・ベイビーズ』『限りなく透明に近いブルー』とかも読んでいました。村上龍の小説は、ロック・バンド的というか。「セックス、ドラッグ、ロックンロール」みたいなことを過激に描いていて、特に自分が10代の頃、そういう感じに惹かれていた記憶があります。

ー小説で一番読んでいるのは、村上龍ですか?

常田:いや……そんなこともないかも。系統は違いますけど、村上春樹とかも読みます。それこそ二人とも、商業的にも成功していますよね。俺の中では、坂本龍一と近い感じがあると思っているんです。三人とも同世代ですよね。

ー1950年前後に生まれて、今60代後半を迎えている三人ですね。

常田:文学的、芸術的な視点もあり、なおかつ大衆的な視点もあるという点で、村上龍、村上春樹、坂本龍一は近い印象なんですよね。それぞれのスタンスというか、筋が通っているし、社会的に成功しているところも共通しているなと。

ー漫画は2冊挙げられていますが、漫画も結構読みますか?

常田:読んでるつもりなんですけど、周りと比べると全然かも(笑)。手塚治虫の漫画は、軽快で面白いですよね。浦沢直樹もそう。手塚治虫の『七色いんこ』は、今読んでも全然面白いです。

ー『七色いんこ』は、30年以上前の作品ですね。

常田:漫画に限らず、今回挙げた本は昔のものが多いですけど、やっぱり、時代を超えて残っているものには「なにか」があるなあと思いますね。

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