パール・ジャム『Vs.』 あなたが知らない10の事実

7.「ベター・マン」はヒットしそうだという理由でアルバム収録が見送られた

ヒットの可能性を感じながら、曲をあえてお蔵入りにするアーティストは多くないだろう。しかし1993年当時のパール・ジャムは、そういった平凡な考えを持ち合わせてはいなかった。デビューアルバムで「セルアウトした」と批判され、スターダムに居心地の悪さを感じていた彼らは、商業的なものを敬遠しようとしていた。オブライエンはプリプロ段階のリハーサルで「ベター・マン」を聴いてヒットを確信したというが、そのことはむしろメンバーたちの警戒心を煽ることになった。



「曲をやり終えたとき、俺はすごく興奮してた。『これは確実にヒットするぞ』ってね」。彼はクロウにそう語っている。「でもメンバーたちは皆浮かない表情をしていた。その瞬間、俺は自分が余計なことを口走ったと気づいた」。オブライエンに説得される形で、バンドは『Vs.』のセッション時に「ベター・マン」をレコーディングしたが、メンバー全員がその曲の出来に納得していなかった。ヴェダーはグリーンピースのチャリティーアルバムに参加するクリッシー・ハインドに同曲を提供しようと提案したが、オブライエンとバンドのメンバーたちはこれに反対した。後に再レコーディングされた同曲は、1994年作『バイタロジー』に収録されている。「エディーが納得できるよう、レコーディングを2度やり直した。ストレートなポップソングといえるあの曲に、彼はそれだけ抵抗を感じていたんだ」

8.  『Vs.』の原題は『ファイブ・アゲインスト・ワン』だった

「ひとり、ふたり、3人、4人、5人対1人か」。ヴェダーは「アニマル」でそう歌っている。メディアによる迫害からギャングレイプまで、その歌詞の内容については様々な憶測が飛び交った。真実は定かではないが、「5人対1人」というフレーズを気に入ったゴッサードは、それをアルバムのタイトルにしようと提案したという。

「あのフレーズは、アルバムを完成させるまでの過程をうまく言い表していると思った」。同作の完成間近に行われた本誌のインタビューで、彼はそう語っている。「それぞれの意思、それぞれの魂、そういったものがぶつかり合う様子をね。このバンドに限らず、ほとんどのロックバンドに言えることだと思うけど、メンバーが互いに譲歩しあうってことは、それぞれがクリエイティビティを発揮するのと同じくらい大切なんだよ。そのことが理解できなければ、優れたバンドにはなれない。エディの考えとは全く違うのかもしれないけど、俺にはすごくピンときたんだ」

土壇場になって『Vs.』というより抽象的(かつ興味を掻き立てる)タイトルに変更された理由は、現在でも明らかにされていない。発売直前での変更だったため、当初出回ったカセットの中には外箱に『ファイブ・アゲインスト・ワン』と記されているものも存在する。

9. ジャケットの羊は当時のバンドの心境を代弁している

ドラマチックなポートレートだった『テン』とは対照的に、『Vs.』のジャケットにはフェンスから顔を突き出した羊の写真が使われている。にわかファンを拒絶するというバンドの意思表明だという見方も少なくなかったが、アメントはあの写真が制作当時のメンバーたちの心境を物語っていると主張している。

「『Vs.』のジャケットの羊は、モンタナのハミルトンにある農家で飼われてた」。アメントは2001年にスピン誌にそう語っている。「あの写真が、当時の俺たちの心境を多少なりとも物語っていたことは確かだ。プリンスも言ってただろ、俺たちミュージシャンは奴隷みたいなもんだって」。

Translated by Masaaki Yoshida

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