英インディ・レーベルのCEOが語る、アーティストからメジャー契約が敬遠される理由

ー最近のアーティストはこのへんの事情をどのぐらい知っているのでしょう? 今ではロイヤリティのデータはストリーミングサービスから直接入手できますから、おそらく昨今のミュージシャンは金銭感覚も研ぎ澄まされているでしょうね。

確実に彼らも意識が高くなっているね。僕がミュージシャンだった2005年当時、自分の作品を広める手段はただ一つ、レコード会社とメジャー契約することだった。とにかくなんでもいいからリリースしたいものだから、契約できるならどこでも構わなかった。でも、ストリーミング・サービスもアーティストから冷遇されているんだよ。まだ多くのアーティストが、問題はストリーミング・サービスじゃなく、レーベルやレコード契約にあるんだということをちゃんと理解していないんだ。

ーいま現在、従来のメジャー契約に対する一般的な考え方とはどういうものでしょう?

90年代は、アーティストがメジャー契約すれば大成功とみなされた。ただし問題は、そうして契約を結んだうちの50%は、いまどこでどうなっているのか分からないってこと。みんなそろそろ気づき始めてるんだ――音楽業界はもはや信用ならないってね。

そういう見方は場所にもよるね。グライム系のラッパーはみんな独立心旺盛で、いちから全部自分で叩き上げているから、メジャー契約しても、その頃にはお目当てのものをちゃんと手にしている。何が何でもメジャー契約、という時代はもう過ぎ去ったも同然なんだよ。一方でフィリピンでは、レコード会社と契約していることを快く思わないアーティストもいて、(レコード会社が)曲をリリースするときに架空のレーベル名義でリリースするんだ。実はメジャー・レーベルと契約していることがばれないようにね。ここイングランドでもそう。うちの(Ditto)アーティストの中にも、既にメジャー契約しているものの、インディと見られたがっているアーティストはいる。いまどきの流行なんだよ。時代の流れが変わったのさ。

ー「流行」というのはどういう意味ですか?

グライム・シーンで一番重要なのは、自分が全責任を負っている、自分が仕切っている、というイメージが大切だということ。レーベルとの契約が足かせになるアーティストもいるってことさ。レコード契約するにしても、自分はインディなんだって主張し続けられるようにしておく。例えば、ワーナーミュージックのADA(ワーナーのインディーズサービス部門、Alternative Distribution Allianceのこと)は、形はインディ・レーベルだけど、ふたを開けてみれば運営しているのはワーナーだ。彼らはアーティストと契約を結ぶと、とりあえずADA部門に所属させて、あたかも自分たちはインディ・レーベルですという顔をするんだ。実際には同じワーナーチームなんだけどね。レーベルがアーティストを言いくるめているわけじゃない。彼らも、生き残るためにはこうせざるを得ないんだ。

Translated by Akiko Kato

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