アマゾン本社がやってくる? ニューヨークとバージニアの住民から懸念の声

アマゾンの新本社の候補地選びが終盤に差し掛かっている。(Photo by Igor Golovniov/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

アマゾンの新本社の候補地選びが終盤に差し掛かっているようだ。噂では、ニューヨーク州クイーンズのロングアイランドシティと、バージニア州アーリントン近郊のクリスタル・シティ地区の2カ所に新社屋を構えるべく、契約の準備を進めているという。同社は2017年、本拠地シアトルでの雇用が業績の上昇に追いつかないのを受け、第2本社の建設地を探していると発表した。これに伴い、新たに5万人の雇用が見込まれる。

ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ州知事は月曜日、あらゆる手段を講じてアマゾンを誘致し、契約を獲得するつもりだと報道陣に語った。この一年、アメリカ国内の都市は大幅な減税優遇措置をちらつかせ、同社にラブコールを送っていた。「もし必要であれば、自分の名前をアマゾン・クオモに変えてもかまいません」と知事。「それだけ莫大な経済効果がもたらされるのですから」

地域住民や地元の活動家は、知事ほど熱心ではない。

「もしアマゾンが(何万人もの)従業員をロングアイランドシティに送り込めば、彼らは収入も多いでしょうから、(地下鉄)7番線沿いの便利な場所に住みたがるでしょう。その結果、クイーンズではこれまでなかったほど賃料が高騰すると思います」と語るのは、マイケル・フォレスト氏。クイーンズ土地開発反対運動の発起人だ。「もしこれが決定すれば、クイーンズの人々はみな、賃料高騰の危機にさらされます。恐ろしい事態が待っています」

クイーンズの南西に位置するロングアイランドシティは、ここ20年に近隣工業地域で見られた急速な経済成長の対応に追われている。地元住民は、さらに都市化を進めることになる再開発計画にずっと反対の意を表明してきた。「2000年代に入ってから、ロングアイランドシティの景観はがらりと変わってしまいました。いま我々は文字通り、高層ビルの陰で暮らしているのです」とフォレスト氏。「人々は全員一致でロングアイランドシティの大規模な都市開発に反対しています。ですが我々の声が届かないまま、街はどんどん開発計画を推し進めています」

「アマゾンがロングアイランドシティに腰を据えれば、押し寄せる都市化の波で、いまも残る労働者階級や大部分の中流階級は一掃されてしまうでしょう」と語るのはジェレマイア・モス氏。「消えゆくニューヨーク」と題したブログを運営し、同名の書籍も出版。都市開発により姿を消しつつある小規模経営の企業や文化を追いかけている。「マンハッタンのチェルシー近辺でも、グーグルが進出したことで同じことが起こりました。不動産価格は天井破りに上昇し、家主もあの手この手で既存のテナントを追い出しにかかっています。建物を一度売却し、ポートフォリオをいったん白紙にした上で、新たにやってきた上流階級に市場価格で販売しようというわけです」

地元企業が受ける影響とは?

モス氏いわく、地元住民のみならず、地元の企業もこうした大企業の本社移転に伴う都市の変化と賃料高騰の煽りを受ける。

「大手IT企業の従業員は、えてして地元の中小企業を大事にしないものです」とモス氏。「彼らは閉鎖された環境で仕事をしています。そこではすべてが支給され、あるいはチェルシーマーケットのようなフードコート型の大型施設が併設され、彼らの腹を満たしています。ですから、大手IT企業の周りで小規模の商業が息絶えていくのを目にすることになります」

過剰な都市開発による経済上の問題に加えて、現実的な問題もある。街の地下鉄交通システム、とくにロングアイランドシティを走る7番線が、はたして大量の新規住民に対応できるのだろうか? 交通の便がいい、というのがアマゾン新社屋の建設地探しの主要課題だった。発達した効率的な公共機関を備えた街、というのが直ちに交渉の最優先事項に挙げられた。

クオモ知事は、ニューヨークの地下鉄システムを混乱に陥れたとして、内外から広く批判されてきた。慢性的な混雑と遅延により、かつてはニューヨークが誇る交通機関だった地下鉄も、いまでは頼りにならないお粗末な存在となってしまった。

「現在7番線は飽和状態で、もはやロングアイランドシティは交通の便がいいい場所とは呼べません」と、ジミー・ヴァン・ブラマー市議会議員はニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューに応えた。「アマゾンの従業員は、電車に乗るにも相当気合を入れなくてはならないでしょうね」

先週発表された新たな支出計画によれば、行政はロングアイランドシティおよび近郊を走る地下鉄路線の改装を行うつもりらしい。また、新たに路線増設も検討している。都市交通局(MTA)が抱える既存の問題を解決する、というこれまでの約束がどれだけ実現したかを考えれば、こうした計画もロングアイランドシティの住民にはなんの慰めにもならない。彼らは、新たに移り住んできた住民が毎朝地下鉄の車両に詰めかける状況に、どう対処しようかと頭を悩ませている。

アーリントンの住民も同じ悩みを抱えている。大量の新規住民が押し寄せることで街の交通機関が受ける影響を懸念しつつも、都市開発を不動産取引が活発化するチャンスとしてもとらえている。不動産業者は自宅を売りたがっている人々に対し、正式な移転発表があるまでは売却を待つようにと助言している。間違いなく、移転により不動産価格は上昇するからだ。

「ほとんど毎回、買い手にも売り手にもこのような話をしています」と、アーリントンの不動産業者エリ・タッカー氏はCNBCとの取材で答えた。「アマゾン第2本社の好機を逃したのでは、とご心配になった方がご相談にいらっしゃいます。売り手のみなさんから、いま売却するべきか、それとも待つべきか、という質問もいただきますよ」

「ご覧の通り、道路は既に大混雑しています」というのはDC在住のマーク・マニヴォグ氏。「もちろんうれしいですよ、移転により多くの雇用が創出されますし、ビジネスチャンスも増えますからね。でも同時に、交通や住宅価格の問題もでてくるでしょう」

Translated by Akiko Kato

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