主要音楽プラットフォームから分析、ヒット曲なき2018年の夏とサマーソングの終焉

ローリングストーン誌による分析画像(Photo by Rolling Stone)

カーリー・レイ・ジェプセンの「Call Me Maybe」が2012年の代表曲であることに誰も異論はないだろう。2002年はネリーの「Hot in Herre」がヒットし、その翌年はビヨンセとジェイZの「Crazy in Love」がヒットした。1992年はサー・ミックス・ア・ロットの「Baby’s Got Back」、1983年はポリスの「見つめていたい(Every Breath You Take)」とリストは延々に続く。

暑い夏の訪れはアンセムのように毎年誰もが口ずさむ楽曲を運んできた。こうしたメガヒット曲は、ラジオの電波に乗って夏を謳歌する人々の耳に残り、熱波と同じくらい人々の心に深く刻まれた。毎年注目されるあまり、ジャンルとして既に定着している夏の定番ソングは、大手レコード会社やラジオ局に影響力があった時代は出てきやすかった。

しかし、近年の夏のヒット曲はどれだろう? 夏が去ってから久しい今、2018年のビーチを賑わせたヒット曲を振り返ってみても、これという1曲が見当たらない。音楽ファンがめまぐるしく変わる方法でお気に入りの曲をみつける今、誰もがナンバーワンと認める1曲を選ぶのは不可能だ。ローリングストーン誌はラジオネットワークからiHeartRadio、音楽ストリーミングからSpotify、動画ストリーミングからYouTubeという3つのオンラインミュージックプラットフォームを取り上げて、それぞれの視聴方法によってどのようなヒット曲が選ばれたかを分析した(注:iHeartRadioのトラックはラジオ局ごとに視聴者が聴いた回数の総合計をもとに集計される一方、SpotifyとYouTubeは個人のオンデマンドストリーミングによって集計される)。


ローリングストーン誌による分析画像(Photo by Rolling Stone)

iHeartRadioがローリングストーン誌に提供したオンエア曲の合計によると、5月から8月にかけてアメリカ全土のラジオ局がポスト・マローンの「Psycho」、ゼッドの「The Middle」、テイラー・スウィフトの「Delicate」などのポップな曲を放送していたことが判明した。それに対し、ストリーミングサービスでは、ジュース・ワールド、XXXテンタシオン、カーディ・Bなどのフレッシュなアーティストが人気だったことがSpotifyとYouTubeがそれぞれローリングストーン誌に提供したデータで明らかになった、

アメリカでは成人の92パーセントが週に一度はラジオを聴いている

その差は、デジタルを好む若い視聴者がオンデマンドのストリーミングサービスを通して新しい音楽と出会い、注目曲が瞬く間にチャートのトップへと駆け上ることにある。その一方、AM/FMラジオはあらゆる世代のアメリカ人が音楽を聴く手段として未だに人気だ——ニールセン社の統計によると、成人の93パーセントが週に一度はラジオを聴いていることがわかった。

当然ながらラジオというフォーマットの性質上、最新トレンドに追いつくまで時間がかかる。地方ローカル局を担当するマネージャーたちの多くは、幅広いリスナーに受け入れられているという確証なしに1曲をローテーションすることには消極的だ。その結果、1曲が音楽業界の注目を集めてから3カ月から半年ほどの時差が生じる(多くの場合、既にヒットしている曲との間にジレンマを生じさせる)。「一般的なリスナーは、ストリーミングの流行とはシンクロしていません。ストリーミングの流行は、行動的な消費者という小規模なセグメントによって構成されています」。iHeartRadioの親会社であるiHeartMediaのチーフプログラミング担当を務めるトム・ポールマンはローリングストーン誌に述べた。「行動的な消費者とそうでない消費者の両方がサマーソングを認識するまでには時間がかかります」

行動的な視聴者とそうではない視聴者の隔たりによって上記の分析画像でもヒット曲が重ならないことが明らかになった以外に、今という時代がいつも新しい音楽であふれているという事実もある。音楽ストリーミングによってレコーディング、プロデュース、リリースのスピードは活性化した。絶え間なく新しい楽曲が流れ込んでくる風潮によって、一つのストリーミングサービスで期間を特定しても本当の「ナンバーワン」を見分けることは容易ではない。

「今年の夏、アメリカでは昔と比べて突出したヒット曲があったとは言えないでしょう」。YouTubeのケヴィン・アローカはローリングストーン誌に述べた。「たとえば、去年の夏はルイス・フォンシの『Despacito』とエド・シーランの『Shape of You』が常にストリーミングされ、最終的に『Despacito』がYouTubeでもっとも再生回数の多い動画になりました」。アローカが言うには、幅広い視聴者層を持つYouTubeというプラットフォームの特徴として、ポピュラー音楽のランキングも「ますます多様になり、全体としてのカテゴリー化が難しくなっている」

iHeartのラジオ局、Spotify、YouTubeのすべてにトップ10入りを果たしたドレイク

だからと言って、音楽以外の理由でこうした曲がデジタルプラットフォームで再生、視聴されるわけではない。たとえば、ドレイクの「In My Feelings」はネット上で広がったミームによってアメリカのSpotifyで171,933,952ものストリーミング回数を集めた。それなのに、iHeartのラジオ局ではトップ10に入らなかった。ラジオしか聴かない人は今年の夏、この曲がどれほどミレニアル世代の心に響いたか、気がつかなかったかもしれない。

音楽チャートは明確な答えを出してくれるか? 残念ながら、この議論の解決を音楽チャートに望むことはできない。なぜなら、現在の音楽チャートはストリーミング回数と昔ながらのアルバム・セールスを比較しているからだ。そこでは、1500回にわたるストリーミングがアルバム1枚の売り上げという恣意的なレートで換算されているのだ。さらには、一部のチャート作成者が無料ストリーミングよりも有料ストリーミングを重視することで、チャートは一層厄介になっている。これではオンラインゲームの人気がわからないのと同じように、本当の人気がわかるはずがない(正しいリリース戦略や熱心なファンを上手に利用すれば、誰だってハッキングによってナンバーワンになれる)。

レコードショップの売り上げという昔ながらのシンプルなものさしが十数ものサイトやプラットフォームによって提供される、ありとあらゆる数値に取って代わった今、音楽ファンは自信を持ってどれが2018年の夏のヒット曲であったかを言えなくなってしまった。なぜなら、それは集計している人によって変わるからだ。音楽制作に携わる人々にとって、それは祝福であると同時に呪いでもある。ナンバーワンになれる可能性がかつてないほど高くなる一方、群衆から抜きん出るにはかなりの努力が必要だ。

「アーティストはたくさんの楽曲を早いサイクルで発表するため、1曲を探求する時間が短くなっています」。iHeartMediaのポールマンは言う。「そのせいで、時として曲のポテンシャルがきちんと理解されないことがあります」。もちろん、iHeartのラジオ局、Spotify、YouTubeのすべてに4曲が今夏トップ10入りを果たしたドレイクほどの大物であれば、こうした断片化を逆手に取ることは可能なのだが。

Translated by Shoko Natori

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